研究概要 |
本研究の目的は、ヒトの相同組換え修復において中心的に働くRAD51がヌクレオソーム上でどのように組換え反応を行っているかの分子機構を解明することである。具体的には、ヌクレオソーム構造上でのRAD51の相同鎖対合活性を解析する実験系を試験管内で構築し、様々なヌクレオソーム構造を用いた際の組換え反応に及ぼす影響について解析することを研究計画とした。本年度は以下の研究成果を得た。(1)ヌクレオソーム構造上での組換え反応解析系の確立。実験系を構築するにあたり必要なリコンビナントタンパク質(ヒストンH2A, H2B, H3.1, H4およびRAD51, RAD54)及び超ら旋状二重鎖DNAを精製した。精製したヒストン及びDNAを用いてヌクレオソーム構造を有するDNAを再構成し、RAD51のヌクレオソーム構造上での相同鎖対合活性を解析した。その結果、RAD51単独では対合活性を示さなかったがRAD54存在下では対合活性を示した。このことからRAD51はクロマチンリモデリング活性を有するRAD54と協同的に働くことでヌクレオソーム構造を有するDNA基質においても組換え活性を示すことが明らかになった。(2)異なるヌクレオソーム構造上での組換え反応の解析。ヒストンには多数のバリアントが存在し、それぞれのバリアントを含むヌクレオソームの細胞内における役割は異なると考えられている。そこでH3バリアントH3.2、H3.3を含むヌクレオソームをそれぞれ再構成し、H3.1を含むヌクレオソーム上での組換え反応との比較解析を行った。その結果、どのH3バリアントにおいてもRAD51単独での組換え反応は阻害するが、RAD51-RAD54共存下では同程度の組換え反応を示すことが示された。以上の解析から、ヌクレオソーム構造上での組換え反応を解析する実験系を確立し、異なるクロマチン構造上での組換え反応の解析にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2011年度の研究計画として、(1)解析系の確立に必要なリコンビナントタンパク質及びDNA基質の精製、(2)ヌクレオソーム構造上での組換え反応解析系の確立、(3)異なるヌクレオソーム構造上での組換え反応の解析、(4)RAD51活性化因子の及ぼす影響を掲げた。この内(1)としてはリコンビナントタンパク質RAD51, RAD54,及びヒストンH2A, H2B, H3.1, H3.2, H3.3, H4を精製し、超ら旋状の二重鎖DNAについても各解析に適した様々なDNAの精製を行った。精製したタンパク質及びDNAを用いてヌクレオソーム構造上での組換え反応を解析する実験系を確立した。また、同様の解析を異なるH3バリアントについても行い、組換え反応とヌクレオソームの構成分子との関係性についても解析することが可能となった。その一方で、RAD52, SSB1, EVL, PSF, GEMIN2などのRAD51活性化因子の精製も行っており、これらの因子のヌクレオソーム構造上での組換え反応における機能についても現在解析を行っている。以上の研究状況から上記の評価が妥当だと考える。
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