研究課題/領域番号 |
23710226
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
日野 信次朗 熊本大学, 発生医学研究所, 助教 (00448523)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / ゲノム / エネルギー代謝 / 栄養学 |
研究概要 |
本課題は、ヒストン脱メチル化酵素LSD1によるエネルギー代謝遺伝子の発現調節と栄養環境依存的な代謝エピゲノム形成機序の解明を目的としている。これまでの研究で、脂肪細胞においてLSD1がクロマチン構造制御を介してエネルギー消費遺伝子の発現を抑制していることを明らかにしている。本年度は、以下の項目について研究を実施し、重要な成果を得た。1.FAD依存性LSD1活性化とエネルギー代謝調節LSD1の必須の補酵素FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)は、細胞内エネルギー代謝調節において重要な役割を果たしている。このことから、代謝状況に応じたFAD量の変動がLSD1によるエネルギー代謝調節の上流刺激である可能性を推察し、検証した。3T3-L1脂肪細胞を用いてFAD合成酵素遺伝子をRNAi法にてノックダウンし、遺伝子発現変化を網羅的に解析したところ、LSD1による抑制標的であるエネルギー消費遺伝子群の発現が上昇していた。また、FAD結合部位に変異を導入した変異型LSD1を用いてレポーター遺伝子試験を行ったところ、転写抑制機能の著明な低下が認められた。これらのことから、低FAD条件下ではLSD1酵素活性が低下し、標的遺伝子の脱抑制が生じていた可能性が示唆された。2.選択的LSD1阻害剤によるエネルギー代謝転換これまでにLSD1阻害活性を有する化合物tranylcypromineがLSD1標的エネルギー消費遺伝子群の発現を誘導すること、マウスにおいて抗肥満活性を有することを明らかにした。本年度は、より選択性の高い化合物を用いてLSD1阻害とエネルギー代謝転換について検証した。この結果、いくつかの選択的阻害剤が強力にエネルギー消費遺伝子発現を誘導すること、ミトコンドリア呼吸を活性化することを明らかにした。このことは、LSD1活性阻害がミトコンドリア機能向上に有用である可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、1. FAD依存性LSD1活性化とエネルギー代謝調節、2.選択的LSD1阻害剤によるエネルギー代謝転換について重要な知見を得ることができたため。また、これらの知見を記載した原著論文を刊行することができ、多数の学会・研究会において成果発表ができたため。
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今後の研究の推進方策 |
当初より計画している「代謝メモリー形成と肥満発症をつなぐLSD1の機能」及び「タンパク質間相互作用から見た栄養環境依存的LSD1活性」についてそれぞれマウス遺伝学的及び分子細胞生物学的アプローチにより研究を実施する。また、当該年度の知見を踏まえて、生理条件下におけるFAD量変動によるLSD1機能の変化を検討する。同様に、LSD1阻害剤のin vivoにおける抗肥満効果を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
分子生物学、細胞培養及びマウス飼育に多くの研究費を使用する。また、研究成果発表のための国内旅費に一部割り当てる。
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