研究課題
DNAメチル化異常は、がん抑制遺伝子不活化の主要なメカニズムである。がん細胞では、多数の遺伝子にメチル化異常がみられるが、これらのほとんどは、発がんの随伴現象であり、がん抑制遺伝子のメチル化はごく一部である。DNAメチル化異常は、特定の遺伝子に誘発されやすいという性質をもち、その機構として、RNA合成酵素が結合している遺伝子はメチル化されにくいことが知られている。本研究では、RNA合成酵素が結合しているにも関わらずメチル化されてしまう遺伝子(Outlier遺伝子)を探索することで、新規がん抑制遺伝子を効率的に同定する方法「Outlierアプローチ」を開発することを目的とした。2年目の本年度は、平成23年度に同定した乳がん臨床検体においても異常メチル化されている4個のoutlier遺伝子(FBN2、HOXA5、HOXC9及びDZIP1)のうち、DZIP1について、がん抑制遺伝子であるかどうかの機能解析をおこなった。乳がん細胞株HCC1937及びMDA-MB-436において、2種類の異なるshRNAを用いてDZIP1をノックダウンし、DZIP1が細胞増殖能に与える影響を調べた。その結果、コントロールのshRNAを導入した細胞と比べて、DZIP1をノックダウンしたHCC1937細胞では約2倍、MDA-MB-436細胞では1.5-2倍程度の細胞増殖の亢進が認められた。このことから、DZIP1は、乳がんにおけるがん抑制遺伝子であると考えられる。また、DZIP1以外の3個のoutlier遺伝子のうちFBN2及びHOXA5は既にがん抑制遺伝子であることが報告されている。以上のことから、Outlier遺伝子の探索によりがん抑制遺伝子が効率的に同定できることが示された。
1: 当初の計画以上に進展している
申請時の計画では、平成25年度にOutlier遺伝子を探索することで、新規がん抑制遺伝子が効率的に同定できることを示す予定であった。しかし、平成24年度のうちに乳がんにおける新規がん抑制遺伝子を同定することができ、Outlierアプローチの有効性を示すことができたため、当初の計画以上に進展しているといえる。
平成25年度は、Outlierアプローチを用いて大腸がんなど他のがん種における新規がん抑制遺伝子の探索をおこなう。具体的には、大腸正常細胞及びがん細胞株におけるDNAメチル化状態の解析、正常細胞におけるRNA合成酵素結合状態の解析をおこない大腸がんにおけるoutlier遺伝子を同定する。次に、outlier遺伝子のうち、がん臨床検体においてもメチル化されている遺伝子を同定する。これらの遺伝子の機能解析を行うことで、大腸がんにおける新規がん抑制遺伝子を同定する予定である。
平成25年度に請求する研究費は、DNAメチル化解析、RNA合成酵素結合状態の解析及び細胞培養関連試薬等への使用を計画している。
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Cancer Letters
巻: 322 ページ: 204-212
10.1016/j.canlet.2012.03.016