DNAメチル化異常は、がん抑制遺伝子不活化の主要なメカニズムである。がん細胞では、多数の遺伝子にメチル化異常がみられるが、これらのほとんどは、発がんの随伴現象であり、がん抑制遺伝子のメチル化はごく一部である。DNAメチル化異常は、特定の遺伝子に誘発されやすいという性質をもち、その機構として、RNA合成酵素が結合している遺伝子はメチル化されにくいことが知られている。本研究では、RNA合成酵素が結合しているにも関わらずメチル化されてしまう遺伝子(Outlier遺伝子)を探索することで、新規がん抑制遺伝子を効率的に同定する方法「Outlierアプローチ」を開発することを目的とした。3年目の本年度は、平成24年度までに乳がんにおいて有効性を示した「Outlierアプローチ」を用いて、大腸がんにおける新規がん抑制遺伝子の探索をおこなった。ヒト大腸の正常細胞株1種類及び大腸がん細胞株3種類についてDNAメチル化状態をゲノム網羅的に解析し、がん細胞株でのみ高頻度にメチル化されている遺伝子を982個同定した。さらに、正常細胞におけるRNA合成酵素の結合状態及びH3K27トリメチル化状態をゲノム網羅的に解析することで、正常細胞においてRNA合成酵素が高レベルに結合しているにも関わらず、がん細胞株でメチル化されているOutlier遺伝子を225個同定した。これらのうちCDIP及びLYPD1について、大腸がん臨床検体におけるメチル化レベルを測定したところ、それぞれ13.7及び25.5%の検体において異常メチル化が認められた。今後、これらの遺伝子ががん抑制遺伝子であるかどうかの機能解析を行う必要がある。3年間の本研究の成果により、Outlier遺伝子の探索によりがん抑制遺伝子が効率的に同定できることが示された。また、乳がんにおいて新規がん抑制遺伝子DZIP1が同定された。
|