研究課題/領域番号 |
23710233
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
瀧川 一学 北海道大学, 創成研究機構, 特任助教 (10374597)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | モデル化 / 分子間ネットワーク / 機械学習 / 遺伝子 / 発現制御 |
研究概要 |
本課題では、蓄積されつつある既知の分子間ネットワークの情報を用いて遺伝子間の非線形な相互作用をモデル化し、複数の遺伝子と表現型の複雑な関係性の理解を目指す。本年度は代謝ネットワークにおける遺伝子間相互作用について研究を行った。代謝系における各遺伝子の発現制御、その遺伝子産物の生成量、またその遺伝子産物が触媒する反応の産物の量、の関係は予想以上に複雑であることが近年示されてきた。この関係をより定量的に理解するために遺伝子発現量、タンパク質量、代謝産物量、代謝フラックスなど関係する量を同時に定量する研究も行われている。そこで、E. coli K12 MG1655 株のストレス応答に対する遺伝子発現と代謝産物のプロファイルに基づき、代謝関連遺伝子の発現制御と各代謝反応の生成物量変化がどのように代謝ネットワーク構造と関係しているのかを定量的に理解するためのモデル化を行った。(1)代謝ネットワークにおいて発現プロファイルから見て最も連動していると考えられる代謝経路を同定する、(2) その経路上の遺伝子の発現プロファイルに基づきターゲット産物を同定する、という手順で、特定の代謝産物の量の制御に関わっている遺伝子・経路モジュールの同定・解析を行い、論文として報告した。この解析のために、細胞内で活性化されている代謝経路を代謝関連遺伝子の発現量から順位付けして出力する我々が以前開発した計算法の拡張を行った。また、各代謝産物の生成に関わっている遺伝子群を共制御関係とネットワーク構造に基づき「スコープ」として同定し、系全体の挙動を代表するような「スコープの最小セット」について解析を行った。この結果、局所的制御と同時に、代謝ネットワーク上で離れた関係にある産物まで影響が及ぶケースも発見され、遺伝子間に起こり得る複雑な相互作用の一端を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題では遺伝子間の非線形な相互作用の理解のために複数の遺伝子欠損株の計量データの利用に基づくモデル化を考えていたが、本年度は既知ネットワークと種々の定量可能な量との関係性を主に単一株について解析した。既知の分子ネットワークから遺伝子間の複雑な相互関係を理解するという課題目標達成の点においては十分貢献するものであり実り多い成果と言えるが、当初計画の推進という点において十分に満足いく達成度とは言えない。本年度は研究代表者の所属変更のため、本課題の推進の一時中断を余儀なくされ、また研究環境・設備の変化や再準備にかかる労力の点でも影響が大きかった。
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今後の研究の推進方策 |
部分的な研究計画の遅れの主原因である研究代表者の所属変更の影響については本年度内で研究環境や設備も整ったため、次年度以降は当初計画であった欠損株データの利用に焦点を当て、既知分子ネットワークを用いた遺伝子間相互関係の理解を改めて推進していく予定である。また、関係する研究者と連絡を密にすることで、研究環境の変化による当初計画の推進に関わる影響を最小にしていきたい。一方で、研究環境の変化を積極的にプラスに働かせるべく、本課題で解析対象とするデータを柔軟に幅広く求めていく予定である。遺伝子間の複雑な相互関係の対象として、当初計画の時点では酵母欠損株の定量データを用いる予定であったが、特に、ヒトゲノムにおける変異間の相互関係など、定量データと既知分子ネットワークが十分にできる他の系も積極的に研究対象として考慮していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は研究代表者の所属変更の影響により、研究費使用計画は大幅に変更を余儀なくされた。特に、研究場所の変更が確定して以降は本年度購入する予定であった機器の購入は行わなかった。従って、次年度研究費については、本年度購入を予定していた機器・ソフトウェアをまず現在の研究環境で整備するために用いる予定である。また、地理的に離れた関係研究者と連携を密にするための必要な情報交換や打合せにかかる出費としての使用も併せて予定している。また平成23年度に購入した書籍資料の支払いに使用する予定である。
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