研究課題/領域番号 |
23710240
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
ウォルツェン クヌート 京都大学, iPS細胞研究所, 助教 (50589489)
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キーワード | iPS細胞 / SNP / long QT-syndrome / 遺伝子ターゲティング / TALEヌクレアーゼ / トランスポゾン |
研究概要 |
ヒト個人が持つ一塩基多型(SNPs)は、特定の疾患への罹患率を上昇させる原因となる。iPS細胞樹立の技術とin vitroでの遺伝子改変の技術を組み合わせることによって、患者個人のゲノム情報に基づいた疾患機能解析を行うことが可能となる。現在までの技術では、遺伝子操作によってゲノムの中から特定のSNPsのみを改変、修正する事は不可能であった。しかし、ゲノムに挿入後痕跡を残さずに削除することができるトランスポゾンの性質を利用すれば、一塩基レベルでの遺伝子の改変、修正を行うことが可能になる。また近年開発されたTALEヌクレアーゼ (TALEN)による遺伝子改変技術はヒト細胞における遺伝子改変ツールとして注目されている。本研究の目的は、ヒトiPS細胞において遺伝子改変技術を確立することを目的とする。 初年度には、CiRA内での共同研究によりエピソーマルベクターによって樹立された正常および疾患特異的iPS細胞を用いて研究を行なった。まず、SNPアレイやダイレクトシーケンシングを用いて、それら細胞の遺伝子型の解析を行なった。また、FACS解析やソーティング技術を用いて、piggyBACトランスポゾンを取り除く効率の良い条件を検討した。さらに、TALENを用いた効率の良い遺伝子ターゲティング法を確立し、HPRT遺伝子破壊、およびAAVS1遺伝子座にtransgene cassetteを導入した。 研究期間の後半では、AAVS1領域に導入した外来遺伝子が持続的に発現可能かの検討を行った。GFP遺伝子をTALENによりヒトiPS細胞のAAVS1遺伝子座に挿入し、GFPの発現強度により評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CiRAが保有する筋肉変性疾患、神経変性疾患、心臓疾患患者の細胞から樹立した疾患ヒトiPS細胞を利用し、研究を行なった。それらiPS細胞の遺伝子型および特性を解析し、BACから作製した標準的なターゲティングベクターを利用した遺伝子ターゲティングを試みたが、効率が非常に悪く、遺伝子ターゲティングは成功しなかった。そこで、効率の良い新たな遺伝子ターゲティング法の開発を行なった。広島大学の山本卓教授と共同でTALEヌクレアーゼ (TALEN)を利用した方法を確立することに成功した。この新しい遺伝子ターゲティング手法により、ヒトiPS細胞においてHPRT遺伝子破壊、およびAAVS1遺伝子座にtransgene cassetteを導入することに成功した。TALENを用いたヒトiPS細胞でのHPRT遺伝子座ターゲティングに関しては、国際誌に報告した(Sakuma et al., Genes to Cells, 2013)。 次に、未分化状態のヒトiPS細胞においてAAVS1遺伝子座に挿入した外来遺伝子が持続的に発現可能であることを確認した。現在は、AAVS1-GFP導入ヒトiPS細胞を各種分化細胞に分化させることで、分化細胞におけるAAVS遺伝子座からの外来遺伝子発現量について比較検討を行っている。ヒトiPS細胞における遺伝子改変技術の確立は、iPS細胞を用いた病態モデル作製に有用であるのみならず、疾患特異的iPS細胞を用いた病態解明、治療法確立にも応用可能である。本研究手法を用い、より多くの遺伝子に対して遺伝子改変を行なっていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究助成により、ヒトiPS細胞での有効なTALEN技術応用による遺伝子ターゲティング方法が確立できた。さらに、ヒトiPS細胞においてAAVS1遺伝子座が外来遺伝子導入に有用であることが示された。今後は、AAVS1遺伝子座に薬剤遺伝子誘導システムを導入することで、特定の遺伝子機能を解析するとともに、ヒト細胞を用いた病態モデルの作製を目指す。CiRAでは数多くの疾患特異的iPS細胞が樹立されている。様々な疾患特異的iPS細胞に遺伝子ターゲティング技術を組み合わせることで、遺伝子改変を行った疾患特異的細胞を樹立する。それらをCiRAで確立されている分化誘導プロトコールによって疾患原因細胞に分化させ、分化細胞を評価する。ヒトiPS細胞の細胞分化実験においては、CiRA内の他の研究室との共同研究により、日進月歩で改良が行われており、効率的な分化技術を積極的に導入する予定である。本研究により、AAVS1遺伝子座からの外来遺伝子発現システムが構築出来れば、ヒト細胞を用いたレポーターラインの作製やヒト病態モデルの作製が可能となる。さらに、疾患特異的iPS細胞における遺伝子改変技術の確立は、病態メカニズムの解明や、治療法確立に向けた基盤確立に非常に有用であると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、ヒトiPS細胞における効率的な遺伝子改変技術を確立することを最終目的としている。研究開始当初は、BACを用いた従来からの手法により遺伝子改変を試みていたものの、遺伝子改変効率が非常に低く、研究計画に遅れが生じていた。研究期間途中から新規の遺伝子改変技術であるTALENを導入してヒトiPS細胞での遺伝子改変を目指した。我々は、別のプロジェクトにおいてすでに効率的なTALENによる遺伝子改変技術を確立しており、本若手Bのプロジェクトにおいても、KCNE1に対する TALENの作製を完了した。今後、ヒトiPS細胞でのKCNE1 遺伝子の改変を行い、それらを心筋細胞へ分化させた後に、表現型を解析することで、本研究を完遂させる予定である。従って、繰越された補助金は当初研究計画申請書での記載に従い、消耗品(遺伝子解析試薬、細胞培養試薬など)に使用する予定である。
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