研究課題/領域番号 |
23710244
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
谷口 透 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 助教 (00587123)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 糖 / 赤外円二色性 / VCD / 有機合成 / 免疫学 |
研究概要 |
キノコや海藻に含まれるβ-グルカンはグルコースがβ1-3結合で連なった多糖であり、免疫賦活剤や抗がん剤として臨床に用いられている。しかしながら、その特異な三重らせん高次構造のために詳細な分子作用機序は不明である。本研究では (1) 構造が規定されたβ-グルカンフラグメントの有機合成を行い、各フラグメントの三重らせん形成能をVCD(赤外領域円二色性)にて検討する。(2) 得られた各種β-グルカンフラグメントの免疫賦活活性を測定し、β-グルカンの三重らせん形成能と免疫賦活活性の相関について議論する。(3) 最後に、合成によって得たβ-グルカンフラグメントと標的タンパク質との相互作用解析を行う。本研究の達成により、さらに生理活性の高いβ-グルカン誘導体の開発、ならびに新規デリバリー法開発に資すると期待される。 当初の研究実施計画通り、平成23年度はβ-グルカンフラグメントの化学合成に注力することとし、糖同士を連結させるグリコシデーション反応、とりわけスルホキシドを用いたグリコシデーション法の検討を行ってきた。糖スルホキシドの硫黄原子はキラリティーを有し、このキラリティーに着目した研究はこれまでほとんど行われてこなかった。本キラリティーを活用した新たなグリコシデーションを開発することにより、β-グルカンの効率的な合成法を確立したいと考えており、現在糖スルホキシドの研究に関する基盤技術を確立しつつある。 また、天然由来のβ-グルカン多糖の部分分解とそれに続くβ-グルカンフラグメントの再構築を検討している。本技術が実現すればβ-グルカンフラグメントの合成が簡略化できる。現在、β-グルカン産生植物の培養を検討している。 さらに、VCDによる新たな構造解析法として、「VCD励起子キラリティー法」を開発した。本手法により、β-グルカンの詳細な高次構造解析が可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖鎖の高次構造と生命現象の関連は、糖鎖高次構造解析法の欠如のために研究が遅れており、本研究で達成を目指すVCDによる多糖の高次構造解析法の確立は独自性と波及効果からも極めて重要な研究課題である。今回、分子量の大小に関わらず、VCDスペクトルから分子の構造情報を得られる「VCD励起子キラリティー法」を開発し、アメリカ化学会誌に発表した(J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 3695-3698.)。本報告は「Spotlights on Recent JACS Publications」にも注目論文として取り上げられ(J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 5005-5005.)、また海外学会での口頭発表に採択されるなど、本結果が今後さらに国際的にも反響を呼ぶと考えている。さらに、本結果は多糖以外の研究にも容易に応用可能であり、本結果を日本から発信できたのは意義が高い。以上の点から、本結果に対しては当初計画以上の成果が挙げられた。 一方、スルホキシドのキラリティーを用いた新たなグリコシデーション法の開発について、糖スルホキシドのジアステレオマーの効率的な合成・分割法、ならびにVCDを用いた識別法など基礎技術を確立した。これまで糖スルホキシドのキラリティーに着目した研究例はほとんどなく、糖関連化学者にとって有用な成果と考えている。また、硫黄部分のキラリティーの差異を利用した新規のグリコシデーション法の開発について、今後さらに検討を進めて行く必要がある。本成果を論文化し、さらに本成果をβ-グルカンフラグメントの合成に応用できれば一層研究の独自性が高くなると考えているが、論文化は平成24年の夏もしくは秋頃になる可能性もある。以上のことより、達成度をあえて(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究の推進方策は当初計画の通りであり、以下を計画している。 まず始めに、β-グルカンフラグメントの合成に関連した研究を継続する。中でも、上述の新規グリコシデーション法の開発の成否を明確に見極める。糖スルホキシドのキラリティーに関する研究は未開拓の分野であり、このジアステレオマーの分割と分析法を確立した意義は大きく、この成果だけでも論文化する価値が高い。したがって、新規グリコシデーション法の成否に関わらず、秋までには以上の成果を論文化する。 また、秋頃にはβ-グルカンフラグメントの合成を達成し、VCDの測定も終了する。現在の合成ターゲットとして、8糖、16糖、24糖、32糖から成るβ-グルカンフラグメントの合成を計画している。これらは、X線結晶解析によって解明されたβ-グルカン三重らせん構造のらせん1巻き、2巻き、3巻き、4巻きに対応している。合成によって得られたβ-グルカンフラグメントのVCDを水中、DMSO中にて測定する。天然に存在するβ-グルカン多糖は水中で三重らせん、DMSO中で一本鎖ランダムコイルを形成することが知られているが、VCDのスペクトルを解析することにより、三重らせん形成に必要なβ-グルカン鎖長を決定できると期待している。 合成したβ-グルカンについて、樹上細胞に添加し、サイトカインの産生をELISAによって観察する。三重らせんを形成するフラグメントと形成しないフラグメント、および臨床で用いられているβ-グルカン多糖類の活性を比較することにより、高次構造と活性の関連を議論する。本試験については、同大学内の免疫学の研究室から樹上細胞ならびに培養機器の使用の許可を得ているものの、共同研究とするか否かなどは未定である。 また、今後の研究のためのより効率的なβ-グルカンフラグメント合成法の開発を目指し、天然β-グルカンの抽出を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度中に納品したが、支払が次年度以降になったため薬品・書籍・国内旅費の支払に使用する。
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