研究課題/領域番号 |
23710244
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
谷口 透 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 助教 (00587123)
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キーワード | 糖 / 赤外円二色性 / VCD / 有機合成 / 高分子構造 / 免疫学 |
研究概要 |
キノコや海藻に含まれるβ-グルカンはグルコースがβ1-3結合で連なった多糖であり、免疫賦活剤や抗がん剤として臨床に用いられている。しかしながら、その特異な三重らせん高次構造のために詳細な分子作用機序は不明である。本研究では (1) 構造が規定され たβ-グルカンフラグメントの有機合成を行い、各フラグメントの三重らせん形成能をVCD(赤外領域円二色性)にて検討する。(2) 得られた各種β-グルカンフラグメントの免疫賦活活性を測定し、β-グルカンの三重らせん形成能と免疫賦活活性の相関について議論する。(3) 最後に、合成によって得たβ-グルカンフラグメントと標的タンパク質との相互作用解析を行う。本研究の達成により、さらに生理活性の高いβ-グルカン誘導体の開発、ならびに新規デリバリー法開発に資すると期待される。 平成24年度は、昨年度から開発を進めている、糖同士を連結させるグリコシデ ーション反応、とりわけ糖スルホキシドのキラリティーによる反応性の差異を利用した新規グリコシデーション法をβ-グルカンフラグメントの化学合成に適用すべく検討を進めた。その結果、収率に改善の余地はあるものの、簡便にβ-グルカンの部分構造を構築しうる方法論を見出した。また、VCDを用いて糖スルホキシドのキラリティーを簡便に帰属しうる手法を確立した。 さらに、VCDによるβ-グルカン構造解析法として新たに昨年度開発した「VCD励起子キラリティー法」を糖鎖を始めとする各種分子にも適用し、分子の立体構造、とりわけ高分子の二次構造の解析が可能であるということを明らかにした。以上より、本手法にて今後β-グルカンフラグメントの三重らせん構造を解析する基礎技術が確立された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
糖鎖の高次構造と生命現象の関連は、糖鎖高次構造解析法の欠如のために研究が遅れており、本研究で達成を目指すVCDによる多糖の高次構造解析法の確立は独自性と波及効果からも極めて重要な研究課題である。平成23年度では、分子量の大小に関わらず、VCDスペクトルか ら分子の構造情報を得られる「VCD励起子キラリティー法」を開発し、平成24年度では本手法のさらなる応用と理論的考察も進め、多糖への応用が可能であるとの知見を得た。一連のこうした研究は国内外での反響も大きい(15.「備考」参照)。 分析法の発展が大きい一方、平成24年度中の達成を目指したβ-グルカンフラグメントの合成完了はやや遅れている。この原因として、合成上の基盤技術として設定したスルホキシドのキラリティーを用いた新たなグリコシデーション法の開発・応用研究が予想以上に発展(平成25年度中に本法について論文3編の報告を検討中)した一方、本成果の論文報告に必要な実験量が多岐に渡り、予想以上に時間を要したことが原因として挙げられる。本成果は研究の独創性を高める重要な基盤技術であると考えているため、早急に論文化を進めていく。また、本法を用いたβ-グルカンフラグメントの合成を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成25年度の研究の推進方策は、以下の通りである。 まず秋頃までには、β-グルカンフラグメントの合成を達成し、VCDの測定も終了する。現在の合成ターゲットとして、8糖、16糖、24糖、32糖から成るβ-グルカンフラグメントの合成を計画している。これらは、X線結晶解析によって解明されたβ-グルカン三重らせん構造のらせん1巻き、2巻き、3巻き、4巻きに対応している。合成によって得られたβ-グルカンフラグメントのVCDを水中、DMSO中にて測定する。天然に存在するβ-グルカン多糖は水中で三重らせん、DMSO中で一本鎖ランダムコイルを形成することが知られているが、VCDのスペクトルを解析することにより、三重らせん形成に必要なβ-グルカン鎖長を決定できると期待している。 合成したβ-グルカンについて、樹上細胞に添加し、サイトカインの産生をELISAによって観察する。三重らせんを形成するフラグメントと形成しないフラグメント、および臨床で用いられているβ-グルカン多糖類の活性を比較することにより、高次構造と活性の関連を議論する。本試験については、同大学内の免疫学の研究室から樹上細胞ならびに培養機器の使用の許可を得ているものの、共同研究とするか否かなどは未定である。 また、大腸菌にて発現させたβ-グルカン受容体タンパク質と、各種長さを有するβ-グルカンフラグメントとの相互作用をSPRなどの手法を用いて解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度では、学会参加費に40万円、消耗品費に40万円の使用を計画している。具体的には、「VCD励起子キラリティー法」の発見について、平成25年6月にナッシュビルにて6月9日から13日まで開催されるキラル分光法国際学会にて口頭発表が採択されており、本学会への参加の支払いに、25万円使用する。また、8月に大阪で開催される日本糖質学会、平成26年3月に開催される日本化学会年会での発表を計画している。これらの学会では、糖関連化学・天然物化学・ケミカルバイオロジー等の本研究関連領域の情報収集ならびに、本研究成果についての報告を予定している。両学会への参加の支払いに、計15万円使用する。 消耗品費について、現在のβ-グルカン合成スキームではほとんど高価な試薬を必要としないものの、必要試薬等の購入の支払いに計20万円使用する。さらに、合成したβ-グルカンの生物学試験に20万円使用する。
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