研究概要 |
キノコや海藻に含まれるβーグルカンはグルコースがβ1-3結合で連なった多糖であり、免疫賦活剤や抗がん剤として臨床に用いられている。しかしながら、その特異な三重らせん高次構造のために詳細な分子作用機序は不明である。本研究では、構造が規定されたβグルカンフラグメントの簡便な有機合成法の確立とともに、各フラグメントの三重らせん形成能をVCD(赤外領域円二色性)にて検討することとした。 最終年度ではまず、昨年度から開発を進めている、糖スルホキシドのキラリティーによる反応性の差を利用した新規グリコシデーション法の開発、ならびに本法のβーグルカンフラグメントの化学合成の応用について検討を進めた。本法の開発に当たり、光学分割カラムを用いて糖スルホキシドジアステレオマーを簡便に分離する方法を発見し、またVCDを用いて糖スルホキシドのキラリティーを簡便に帰属しうる手法を確立した。それぞれ、論文投稿準備中であり、本結果を日本化学会第94春季年会に報告した。 βーグルカンフラグメントの長さが短い場合には三重らせんを形成しないという結果が得られたため、より長いフラグメントを検討する必要がある。βーグルカンの合成中に、β1-3結合型新奇環状糖を合成しうるという予備的知見を得た。このβグルカン様の環状糖にも免疫賦活活性があるかなど興味が持たれ、新たな研究領域を拓くことができた。 さらに、VCDを用いて多糖のような生体高分子を解析する方法論はこれまで皆無だったが、本研究にて開発した「VCD励起子キラリティー法」(JACS 2012, 134, 3695.)は分子の立体構造を簡便かつ高感度に解析しうる手法となった。実際に、本手法を用いて分子の立体構造を決定できることをいくつかの例にて示し、論文報告した。また生体高分子を解析できることを見出し、現在論文投稿中である。
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