フグ毒として有名なテトロドトキシン(TTX)を生産する微生物として公共の微生物保存機関に登録されたPseudoalteromonas tetraodonis、Shewanella algae、Vibrio alginolyticusのゲノム解析を行ったが、TTX生合成に関与すると推定される遺伝子を絞り込むことができなかった。さらに、Vibrio alginolyticusに絞り、染色体DNAをランダム消化し、TTX生合成遺伝子を包括すると考えられる比較的長い遺伝子領域の発現を試みたがTTXの生産を示唆するような結果は得られなかった。そこで、本研究で入手した菌株がTTX生産能を失っている可能性を検証するため、報告例のある様々な条件にてTTX生産性を検証した。その結果、Vibrio alginolyticusの培養に一般に用いられる培地で培養した時に、TTXそのものではないが、その前駆体と考えられるデオキシ体に相当する化合物の存在をLC-ESI-MS分析で確認できた。その量は少なく、NMRなど他の分析手段による化学構造の確認には至っていないが、もしこれがTTX生合成に関連する化合物であれば、取り込み実験による生合成解析も可能になると考えられる。TTX生合成に関与すると推定される本菌株に特徴的な遺伝子を見いだせないという事実は、Vibrio属であれば種を問わず、TTXの前駆体となりうる化合物を生成する可能性も考えられる。まずは、この少量のTTX生合成に関与すると考えられる化合物の構造を決定し、ランダムに遺伝子を破壊して生合成に関わる遺伝子を特定することが今後の課題である。もしこれが、TTX生合成に関与するものではなく、他の代謝産物あるいは培地成分が分解しただけのものである場合は、TTXを生産する真の生物を再度スクリーニングし、生産系を確立する必要がある。
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