様々な細胞や組織に分化できる幹細胞は、再生医療技術への応用が期待されているが、未分化の幹細胞が残ったまま体の中に移植されるとガン化するといった問題もある。再生医療への実現のためには、未分化幹細胞と分化細胞とを明確に区別しなければならない。当研究室ではこれまでに、幹細胞を認識する蛍光小分子;KP-1を見出した。本研究では、この蛍光小分子に光増感剤や薬剤を導入して、未分化幹細胞を選択的に取り除く分子システムを構築する。このような研究目標の下、申請者は以下の実施計画を設定した。1.KP-1の合成展開;KP-1に種々の置換基を導入し蛍光特性の向上を目指す。2.光増感剤・薬剤の導入;幹細胞特異的な蛍光小分子;KP-1に光増感剤や薬剤を導入する。幹細胞に対する選択的な蛍光シグナルおよび細胞毒性を評価し、構造の最適化を行う。3.発光メカニズムの解明;KP-1の動的挙動および標的タンパク質を特定することにより、幹細胞特異的に蛍光シグナルを示すメカニズムを解明する。申請者は今年度、1.KP-1の合成展開、2.薬剤の導入と毒性評価を行った。KP-1に薬剤などの様々な機能性基を導入する目的で、リンカー部位および機能性分子結合部位(クロロアセチル基)を持つKP-1誘導体を合成した。これらの分子は幹細胞に対する特異性を保持していることを確認した。次に、このKP-1誘導体に抗がん活性を有する5-フルオロデオキシウリジンを結合させたKP-1誘導体;KP-FUを合成した。KP-FUの毒性を評価したところ、トランスポーター依存的に毒性を示すことが確認された。申請者および共同研究者はこれまでに、幹細胞を分化させると細胞膜上のトランスポーター発現量が変化することを見出した。このような知見の基づき、KP-FUは幹細胞と分化細胞とを識別し、幹細胞を除去する分子システムとして機能し得るものと期待される。
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