研究課題
生体内低分子代謝物を網羅的に解析するメタボロミクス技術の急速な進歩により、生体情報を低分子レベルまで捉えることが可能になりつつある。そこで、我々は、難治性疾患であり、その発症機序も未だ明らかにされていない炎症性腸疾患をメタボロミクスにより評価することを目的とした。炎症性腸疾患の発症により低分子代謝物がどのように変動するのかを明らかにすることで、その発症機序の解明、さらには、治療効果を有する分子を見出すことを具体的な目標とした。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)のマウスへの投与は、下痢や血便症状、大腸の組織形態学的特徴など、ヒトの潰瘍性大腸炎に類似した症状を誘発することから、潰瘍性大腸炎マウスモデルとして使用されている。そこで、DSSによる大腸炎の発症における生体内低分子代謝物プロファイルについて検討した。具体的には、C57BL/6JマウスにDSS溶液を5日間自由飲水させ、その後、蒸留水を自由飲水させた。DSS処理により炎症急性期、続けて、炎症回復期を迎えることから、DSS処理前、炎症急性期、そして、炎症回復期にそれぞれ、血清と大腸組織を採取した。血清と大腸組織から代謝物をそれぞれ抽出し、その抽出液を各種質量分析計による測定に供した。その結果、炎症急性期では、大腸組織、ならびに、血清中のグルタミン量が正常な大腸組織と比較して減少し、炎症回復期においては、大腸組織のグルタミン量が正常な大腸組織レベルに回復することを見出した。グルタミン酸やインドール-3-酢酸、コハク酸も同様な変動を示すことを見出した。これらの結果は、潰瘍性大腸炎の発症により、生体内代謝物プロファイルが変動することを示している。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度では、炎症性腸疾患マウスモデル(潰瘍性大腸炎マウスモデル・クローン病マウスモデル)における生体内代謝物プロファイルの評価を実施することを目的とした。潰瘍性大腸炎マウスモデルを用いた実験においては、ほぼすべて完了しており、現在、クローン病マウスモデルでの検討を進めている段階にある。また、平成24年度に使用するためのヒト検体の収集も順調に進んでいることから、「おおむね順調に進展している」と判断している。
平成24年度では、まず、平成23年度で計画していたクローン病マウスモデルの実験を完了させる。その後、潰瘍性大腸炎マウスモデルとクローン病マウスモデルとの実験結果を総合的に、かつ、横断的に評価を行い、そこで明らかとなった事項を参考にして、ヒト炎症性腸疾患患者検体を用いた実験を進めていく。なお、平成23年度の段階で、ある程度のヒト検体を収集が完了しており、それを用いて実験を進めていくとともに、引き続き、ヒト炎症性腸疾患患者検体の収集も進めていく。
平成23年度から繰り越した研究費においては、平成23年度の実験として計画していたクローン病マウスモデルの実験にて使用し、基本的には、プラスティック消耗品やガラス消耗品、質量分析用試薬などの消耗品の購入に使用する。平成24年度では、ヒト炎症性腸疾患患者検体を用いた実験を実施することから、その際、ヒト臨床情報も取り扱う予定である。そのため、データ保護、ならびに、安全性の観点から、本研究におけるヒト情報を専門に扱うためのパーソナルコンピュータを研究費にて購入する。また、プラスティック消耗品やガラス消耗品、質量分析用試薬、質量分析用カラムなどの消耗品の購入に研究費を使用する。さらに、本研究の成果を学会にて発表するために本研究費にて旅費を捻出するとともに、学術論文での発表を行う場合には、論文投稿費用などを本研究費から捻出する。
すべて 2011 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 備考 (1件)
Inflammation Research
巻: 60 ページ: 831-840
Inflammatory Bowel Diseases
巻: 17 ページ: 2261-2274
10.1002/ibd.21616
http://www.med.kobe-u.ac.jp/gi/index.htm