研究課題/領域番号 |
23710257
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
西道 教尚 広島大学, 保健管理センター, 研究員 (00583486)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 生体分子 / 生理活性 / 蛋白質 |
研究概要 |
オステオポンチンは免疫応答、炎症応答や創傷治、腫瘍の転移等に作用するインテグリン結合性サイトカインである。オステオポンチンは様々な翻訳後修飾を受けて活性を変化させるが、中でもトロンビンによる切断や淡白架橋酵素トランスグルタミナーゼ2 による重合は本蛋白質の隠れた機能を出現させる。研究代表者は特に重合に着目して機能解析を進め、その過程で重合型オステオポンチンがインテグリンα9β1 新規結合部位を形成して機能発揮することを試験管内及びマウス生体内で示した。これらの結果はオステオポンチン重合体が単なる老廃物ではなく生理活性物質であることを示唆するが、その新規活性部位、生体分布、ダイナミクス等基本的な性質が全く不明である。そこで本研究は重合型オステオポンチンの生物活性の理解に不可欠な生態を明らかにして提示することを目的として、該当年度では以下解明を試みた。(1)重合の結果出現した新規活性部位(インテグリンα9β1 結合部位)の同定・・・新規活性部位の領域がオステオポンチンのC末端側に存在し、この領域がインテグリンα9β1 結合部位も含んでいることを突き止めた。(2)重合型オステオポンチン特異的抗体の選抜・・・既に所持していたオステオポンチンモノクローナル抗体群から該当抗体の選抜に成功し、さらに本抗体の機能向上にも成功した。(3)炎症応答時における重合型オステオポンチン存在の意義・・・全身炎症モデルマウスを作製し、同マウス生体内においてオステオポンチンが重合し病態の形成に一役を買っていることを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重合の結果形成される新規活性部位の同定を試みた。オステオポンチンの部分欠損変異体を多数作製、トランスグルタミナーゼにより重合し、重合型オステオポンチンの活性指標である好中球の遊走能を細胞遊走試験により検証した結果、C末端側に該当部位が存在することを突き止めた。さらにこの領域がインテグリンα9β1 認識部位も含んでいることをインテグリンα9 発現細胞株を用いた細胞接着試験により確認した。現在、活性発揮に最も重要なアミノ酸をアミノ酸変異導入したオステオポンチンを用いて決定中である。研究代表者がこれまで作製したオステオポンチン特異的モノクローナル抗体群から重合オステオポンチン特異的クローンの選抜に成功した。選抜した抗体は重合体への特異性は確認できたがその反応性は不十分であり、その結果免疫組織科学染色による正確な組織分布の決定が困難であった。そこで本抗体のアミノ酸配列に変異を導入して反応性向上を試みた結果、あるアミノ酸に変異を入れた変異抗体にて反応性の向上が確認できた。今後この改変抗体を用いて組織分布を検証していく。オステオポンチンは炎症時に重合が誘導されるのか、炎症に関与する物質なのか検証した。当初の予定ではLPSによる全身傷害マウス各種組織及び血液中の重合体を上記抗体を用いて検出し、正常時の組織および血液における結果と比較する予定であったが、その時点での抗体の活性が不十分であったため、一部実施計画を変更した。すなわち、本研究者が樹立していたオステオポンチン重合阻害抗体を上記傷害モデルマウスに投与し、障害時に産生する炎症性サイトカイン量や生存率を比較して重合オステオポンチンの病態への関与を検証した。その結果、抗体投与群で炎症性サイトカインの顕著な減少とそれに伴う死亡の遅延が確認され、検証方法は変更になったが炎症時におけるオステオポンチン重合の重要性が証明できた。
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今後の研究の推進方策 |
まずは重合後の活性部位の最終同定を急ぐ。また、重合オステオポンチン特異抗体の改変版を用いて組織分布を明確にしていきたい。上記結果を基にして、生体内での全オステオポンチン中に占める重合体の割合を算出する。重合型オステオポンチン特異的ELISA に加えて、野生型オステオポンチン及びトロンビン切断型オステオポンチン特異的ELISA を構築することにより生体内での各種オステオポンチンをそれぞれ定量して全オステオポンチンフォームに占める重合型オステオポンチンの存在比率を算出する。またその比率は正常時と炎症時では異なるのか、LPS投与マウスでも同様に定量して比較する。生体内の重合型オステオポンチンはどの分子量の重合体(オリゴマー)が活性型として機能しているのか確認する。得られた生体内重合体をウェスタンブロッティング、量的に可能であればゲル濾過クロマトグラフィーにより分画してサイズを確かめた後、各分画体を用いて細胞接着および遊走試験を実施して活性体の分子量を同定する。アミロイド-β やα-シヌクレイン等のトランスグルタミナーゼにより重合するアミロイド蛋白群は、それら自身はアミノ酸相同性を有していないにも関わらず共通のエピトープを形成していることが報告されている。この現象は同じトランスグルタミナーゼの基質であるオステオポンチンにも共通しているのか検証する。アミロイド-β やα-シヌクレインをトランスグルタミナーゼにより重合化した後、作製した重合型オステオポンチン特異抗体がこれら他の重合体を認識可能か、ELISAまたはウェスタンブロッティングにより検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度ではELISAやウェスタンブロットなど抗体をメインに用いた実験が増える予定である。よって、これら実験に必要な試薬、消耗品の購入額は増加すると予想される。また、オステオポンチン以外にもアミロイド-βやα-シヌクレインといった重合に使用するタンパク質の作製頻度は本年度を大きく上回る予定である。よって、タンパク質の発現に必要な試薬、細胞、精製に必要な試薬、消耗品の購入額の占める割合が大きくなると予想される。上記実験には特別な実験装置は必要なく、機器等の購入予定は無い。
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