創薬研究に資する化合物資源開拓のため、未着手微生物より新規生理活性物質を探索する研究の一環として、今年度は自然環境中に安定して存在する微生物集塊を調査した。 1)朝日町小川温泉にて採集したバイオマットの抽出物が、グラム陽性菌および陰性菌に対し、生育阻害作用を示した。前者に対する作用を指標に活性物質の精製を試みたが、活性の濃縮が進まず同定には至っていない。 2)大学近郊の浄化センター3か所からの活性汚泥を調査した結果、一か所の抽出物が大腸菌に対して生育阻害作用を示した。イオン交換クロマトに対する挙動から、塩基性物質であることが示唆されるものの、精製は難航している。 3)アシツキは15度前後の清流に寒天質の集塊を形成する藍藻で、嘗て北陸から中国地方にかけて食された。食経験のある生物材料は人体に対する安全性が高く有望であることから、アシツキを富山県某所にて採取した。抽出エキスは幾つかのグラム陽性菌の生育を阻害したことから、ブドウ球菌に対する活性を指標に精製を進めた結果、末端二重結合を持つ脂肪酸を得た。本脂肪酸はニシンおよび珪藻2種の油からGCにて検出されているが、単離されたのは初めてとなる。様々な生理活性の評価に向けて、現在増量中である。 この他、下記の成果も得ている。4)小川温泉で採取した温排水地底泥より分離した粘液細菌より、新規リゾポディン類縁物質を2種得た。5)食用藍藻イシクラゲが含む抗真菌物質ノストフンギシデジンの構成アミノ酸のうちbeta-hydroxytyrosineのキラリティを決定した。6)海洋産Lysinibacillus fusiformisより、新規アシロイン化合物を得た。 以上得られた成果から、未着手微生物に特化した生理活性物質探索は新規化合物資源の確保に有望であり、引き続き調査を継続する必要がある。
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