近年、生体機能を解明する新手法として、緑色蛍光タンパク質(GFP)に代表されるように、生体現象を可視化するイメージング技術が医学・生物学分野で重要な役割を果たすようになってきた。一方、生きた動物においても望みの分子をイメージングできる手法(in vivo分子イメージング)は未だ発展途上であり、なかでも、生体組織を透過できる近赤外領域(波長 700 nm以上)での蛍光や発光イメージングに利用可能な分子プローブ開発が精力的に行われている。 これに対して、実用的な近赤外生物発光系を新たに開発できれば、革新的な分析手法になりうるin vivoイメージング法が提供できると考え、代表的な生物発光基質であるセレンテラジン(CTZ)に着目した。なかでも長波長発光することが知られているv-CTZの構造を改変した類縁体を設計・合成し、より優れた近赤外生物発光系を開発することで、実用的なin vivoイメージング法が創出できると考え、まず、v-CTZの合成法を新たに開発することに成功した。具体的には、アミノピラジンから出発し、種々のクロスカップリング反応を駆使し、中間体へと導くことができた。すなわち、まず、根岸カップリングで3位選択的に置換基を導入した後、鈴木-宮浦カップリングで5位選択的に置換基を導入、さらに、Stilleカップリングで6位にビニル基を導入することで、鍵中間体を得ることができた。次に、Wittig反応でメチレン化した後、閉環メタセシスでv-CTZの主骨格を構築した。最後に、脱保護の後、従来法であるケトアセタールとの縮合環化反応を行うことで、v-CTZを合成することができた。さらに、v-CTZの安定性向上を狙ってトリフルオロメチル基を有する類縁体合成にも成功し、これらの発光特性や安定性を明らかにすることができた。
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