研究課題/領域番号 |
23710267
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
伊藤 拓水 東京工業大学, ソリューション研究機構, ソリューション研究員 (30533179)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | サリドマイド / セレブロン / ユビキチン / IMiDs / ケミカルバイオロジー / ユビキチンリガーゼ |
研究概要 |
サリドマイド催奇性における主要な標的因子がセレブロン(cereblon, CRBN)であることは以前の申請者らの研究により明らかになったが(Ito et al. Science 2010)、サリドマイドがCRBNと結合した後、いかなる変化を分子レベルにおいてもたらすのかについては不明であった。新たな安全で優れたサリドマイド誘導体を開発する上で、サリドマイドによるCRBN機能阻害機構を明らかにすることは重要である。我々は以前にサリドマイド処理によりCRBNからCI(CRBN-interacting)複合体が解離することを明らかにしていた(Ito et al. Unpublished data)。本年度では、交付申請書に記載した計画に基づき、CRBNとCIの結合様式を解析した。187-260(全442アミノ酸)の領域を欠損させたCRBNは、CI複合体との結合能が著しく低下していたが、一方で別のサブユニットであるDDB1, Cul4(Cul4A, Cul4B)との結合能も低下していた。さらに解析したところ、CRBNとCIが結合するためには、Cul4が足場として働く必要性があることが示唆された。 平行して、本研究の途中でCRBNがサリドマイド副作用だけでなく、サリドマイドおよび誘導体ポマリドマイドの主作用においても重要であるという報告が出されたことから(Zhu et al. Blood 2011)、サリドマイドだけでなくより作用が強力なポマリドマイドにおいてもCI複合体がCRBNから解離するのかどうかを検証した。結果として、ポマリドマイドはサリドマイドより10倍程度、CI複合体の解離を促す活性が強いことが判明した。サリドマイドとポマリドマイドの薬効の違いの解明も、このCIとCRBN相互作用の解析を通して手がかりが得られることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CI複合体が相互作用するために必要なCRBNの領域を明らかにしただけでなく、Cul4がCIとCRBNが相互作用する上で足場となり得るデータを得られたので、当初考えていた以上に有益なデータが得られたものと考えている。また、より主作用の強いサリドマイド誘導体(ポマリドマイド)がサリドマイドよりCI解離能が強いことが判明したことは、予想外であり、CRBN機能阻害機構の明らかにするうえでの新たな手がかりが得られたものと考えている。ただし、Cul4が足場として重要であることが分かったからとはいえ、今年度では、CIのどのサブユニットがCRBNと結合するのかは突き止められなかった。以上、3点を統合して(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目標として、サリドマイドによるCRBN阻害機構の解明を通して、本薬剤の有する催奇性のメカニズムを明らかにすることを設定していたが、本研究の途上でCRBNがサリドマイドおよび誘導体IMiDsの主作用(抗がん作用)にも関わることが報告された。実際、サリドマイドより強力なIMiDであるポマリドマイドでは、5-10倍程度CRBNからCIの解離させる活性が高いという結果が今年度の研究から得られた。よってこの阻害機構の解明は、副作用にとどまらずサリドマイドおよび誘導体IMiDsの作用全体の深い理解に繋がっていくものである。そこで、今後の研究では、当初予定していた組換えタンパク質を用いた生化学や催奇性研究のためのゼブラフィッシュモデルの利用にとどまらず、多発性骨髄腫細胞も用いる。ゼブラフィッシュは遺伝学的な解析は容易であるが生化学的な解析は困難である一方、多発性骨髄腫はRNAiや過剰発現解析だけでなくそれを用いた生化学的な解析も可能である。 以上、当初の研究計画に加えて、サリドマイド主作用解明についても視野に入れたアプローチを駆使してCRBN複合体からCIが解離する意義を探究していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度でCRBNとCI複合体の結合様式の理解がかなり進んだ。次年度においては、CRBNと実際に結合するCIのサブユニットの同定を試みる。また計画通り、本年度はCRBNのユビキチンリガーゼ機能にCIがどうかかわるのかを検証する。組換えもしくは精製CIをCRBNユビキチンリガーゼ活性評価系に導入し、それにより活性化を促すのかを検証する。また多発性骨髄腫株を用いて、CRBN複合体からCIが解離した際にどのような遺伝子発現やタンパク質変化が生じるのかも検証する。これら一連の解析を行っていく際には、生化学および分子生物学関連する試薬類や、それを用いるためのガラス器具が必要となる。
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