申請者は、ES細胞を用いた簡便なケミカルスクリーニング系を構築し、この系を用いてiPS細胞から心筋分化を促進する全く新しい低分子化合物KY02111を発見した(Cell Reports: Minami et al.)。KY化合物は既知の心筋分化促進化合物やタンパク質と比べて非常に強い効果を持っており、このKY化合物を用いて、安定で高効率な臨床グレードのiPS-心筋分化誘導法を世界で初めて開発した。この心筋分化誘導法は、ヒトアルブミンを必要とする以外、培養液中に動物由来血清や増殖因子などを含まない化学合成培地による手法であるため、今現在最も臨床に適しており、それに加えて高純度(~98%)な心筋細胞を得ることができる(従来は10~60%)。さらに化合物で構成される合成培地はサイトカイン等を含む通常の分化培地に比べてコストが顕著に抑えられる。移植に最低限必要とされる10億個の細胞を準備するのに、従来の方法だと1000万ほどかかる費用を50万(20分の1)までに下げることができた。またこのKY化合物は従来の誘導法よりも、チャネル応答や電気的機能、豊富なZ帯を伴う筋原線維や筋形質小胞体の細胞構造、成熟心室筋のマーカー分子であるMLC2vタンパク発現様式において比較的成熟した心筋細胞に分化できていることを見出した。この研究は、Cell姉妹誌であるCell ReportsのBest of 2012に選ばれ、既にいくつかの大学機関や企業に対し化合物と分化誘導プロトコルを提供している。また申請者らは、上述の心筋分化誘導法を用いて、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞から円形の心筋シートを作製し(Eur Heart J: Kadota et al.)、このiPS-心筋シートを用いて、心筋梗塞後の頻脈性不整脈の原因となる廻旋波のモデル細胞を作製することに世界で初めて成功した。
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