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2011 年度 実施状況報告書

阻害剤・タンパク質複合体の分子科学計算による定量的構造活性相関手法の構築

研究課題

研究課題/領域番号 23710272
研究機関徳島大学

研究代表者

吉田 達貞  徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (80527557)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2013-03-31
キーワード金属タンパク質 / 定量的構造活性相関 / 分子間相互作用 / 分子軌道法 / 理論・計算化学
研究概要

薬物-受容体相互作用の原子・電子レベルからの理解と創薬に資することを目的として、両分子の複合体構造に対する分子科学計算・シミュレーションの遂行およびそれらに立脚した新しい定量的構造活性相関 (Quantitative Structure-Activity Relationship; QSAR)解析の提案を目指し、亜鉛含有タンパク質である炭酸脱水酵素とその阻害剤である一連のベンゼンスルホンアミド誘導体を解析対象とし、非経験的フラグメント分子軌道法および拡張Born理論を用いて、両分子間の複合体形成に関わる自由エネルギー変化関連項の詳細解析とQSAR解析を行った。この結果、実測の全自由エネルギー変化は、結合、水和および解離自由エネルギー変化を用いて定量的に説明可能であることを示し、特に、両者の複合体形成においては、結合自由エネルギー変化よりも水和・解離自由エネルギー変化が支配的要因であることを明らかにした。本解析では、従来の受容体情報を含まない古典QSAR解析に対し、薬物-受容体の相互作用の観点から、従来のQSAR解析において頻繁に使用されるHammett σおよび疎水性置換定数πが持つ物理化学的意義を明確に示すことができた。また、薬物分子と受容体タンパク質中のペプチドモデルを想定して、それぞれ一連のacetophenone置換体とN’-methyl acetamideを使用し、両者の分子間相互作用エネルギーの構成成分を分割解析した結果、静電相互作用、電荷移動、分極、交換反発の相互作用エネルギー成分および溶媒和自由エネルギーがいずれもσと良好な線形関係にあることを示し、本来σは化合物の単独状態時における置換基の電子的効果を表しているにも関わらず、分子間相互作用を通してその効果が反映されていることを定量的に明らかにできた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成23年度は、当初計画の新しい定量的構造活性相関法の基盤構築およびその検証までを亜鉛含有タンパク質である炭酸脱水酵素とその阻害剤である一連のベンゼンスルホンアミド誘導体を解析対象として行うことができた。同時に、従来の古典的定量的構造活性相関解析法との比較から、本解析方法が原子や電子レベルでの定量的な詳細情報を与えるなどの優位性を確認することができた。さらに、阻害剤が同族体の場合においては、静電相互作用エネルギー変化と水和自由エネルギー変化の間に一般に逆相関が成立することなど一連の阻害剤とそれらの標的タンパク質間相互作用エネルギーの内訳にいくつかの線形関係が存在することが古典的定量的構造活性相関の成立基盤であることを確認した。また、フラグメント分子軌道法を用いた金属含有タンパク質と薬物分子の相互作用解析を行うための新たな解析法を提案し、炭酸脱水酵素中の亜鉛原子の役割を定量的に明らかにすることができ、他の金属含有タンパク質との相互作用解析へも応用可能であることを示した。以上から、当初計画にしたがっておおむね順調に進展している。

今後の研究の推進方策

平成24年度は、初年度に提案した新しいQSAR法の適用範囲の可能性と予測精度、創薬への応用の可能性について検証を行う予定であるが、特にタンパク質のような生体巨大分子の水和自由エネルギー変化や疎水性相互作用の定量的評価法は、対応する実測データの不足等から充分な検討が行われていないのが現状であり、その定量的精度が問題となり得る。そこで、連続溶媒和モデルによる非経験的分子軌道法計算や一般化Bornモデル(GB/SA法)等の複数の方法に基づく比較評価を行い、パラメータとしての有用性について検討を行う予定である。また、本課題で提案する新規なQSAR手法のより実用化に向けた汎用性について検証するためには、方法論のより多くの解析系への適用が必須である。そこでまずは、炭酸脱水酵素と同様に活性部位に亜鉛を含有するマトリックスメタロプロテアーゼと一連の阻害剤について解析を行い、前年度までの炭酸脱水酵素とその阻害剤の解析結果と対比させることで、それぞれの複合体形成に伴う自由エネルギー変化において支配的となる因子の特定、すなわち、両酵素の阻害メカニズムに関する共通点・相違点を明らかとする。最終的な研究成果は学術論文としてまとめ、体系化を図る方針である。専門分野の異なる学会等にも積極的に参加し、研究調査を行うとともに早い段階から成果発表を行っていく予定である。

次年度の研究費の使用計画

当初計画では初年度に導入予定であった分子科学計算を遂行するためのハイパフォーマンス・コンピュータ(HPC SYSTEMS社製)の購入が、機器を設置する部屋の電気・空調関係対策による環境整備のため遅れたことにより「次年度使用額」が生じた。現時点では、ハイパフォーマンス・コンピュータの購入を終えており、熱の問題等もなく順調に稼働している。平成24年度は、前年度までの膨大な要領となる分子科学計算の出力結果を記録・保存しておくためのハードディスクやDVDメディア等のコンピュータ記録媒体を購入予定である。また、研究調査・関連情報収集を行うために他分野への学会参加および研究成果発表のための学会参加を年に二件以上予定している。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2011

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件)

  • [雑誌論文] Density functional theory study of hydrogen atom abstraction from a series of para-substituted phenols: why is the Hammett σ(p)+ constant able to represent radical reaction rates?2011

    • 著者名/発表者名
      Tatsusada Yoshida
    • 雑誌名

      The Journal of Organic Chemistry

      巻: 76巻 ページ: 4564-4570

    • DOI

      10.1021/jo200450p

    • 査読あり
  • [学会発表] Linear Expression by Representative Energy Terms Analysis on Binding Affinity of Sialic Acid Analogues with Influenza Virus Neuraminidase-1-Why Does Tamiflu Have a Branched Alkoxy Side Chain?-2011

    • 著者名/発表者名
      比多岡清司
    • 学会等名
      CBI/JSBi 2011 合同大会
    • 発表場所
      神戸国際会議場(兵庫県)
    • 年月日
      2011年11月8日-9日
  • [学会発表] Molecular Calculation on Complexes of DHFR with Substituted Triazines2011

    • 著者名/発表者名
      山内香子
    • 学会等名
      CBI/JSBi 2011 合同大会
    • 発表場所
      神戸国際会議場(兵庫県)
    • 年月日
      2011年11月8日-9日
  • [学会発表] Interpretation on Structural Transformation of BACE-1 Inhibitors Using Fragment Molecular Orbital Calculations2011

    • 著者名/発表者名
      相原薫
    • 学会等名
      CBI/JSBi 2011 合同大会
    • 発表場所
      神戸国際会議場(兵庫県)
    • 年月日
      2011年11月8日-9日
  • [学会発表] 古典QSAR解析におけるσp+の理論的解釈 -密度半関数法分子軌道計算に基づくpara-置換フェノールの水素引き抜き反応に関する解析-2011

    • 著者名/発表者名
      吉田達貞
    • 学会等名
      第39回構造活性相関シンポジウム
    • 発表場所
      東京理科大学薬学部(東京都)
    • 年月日
      2011年11月28日-29日
  • [学会発表] Why Does Tamiflu Have a Branched Alkoxy Side Chain?2011

    • 著者名/発表者名
      比多岡清司
    • 学会等名
      第39回構造活性相関シンポジウム
    • 発表場所
      東京理科大学薬学部(東京都)
    • 年月日
      2011年11月28日-29日
  • [学会発表] インフルエンザノイラミニダーゼ-シアル酸誘導体複合体相互作用の非経験的フラグメント分子軌道法に基づく相関解析 (LERE-QSAR)2011

    • 著者名/発表者名
      比多岡清司
    • 学会等名
      第39回構造活性相関シンポジウム
    • 発表場所
      東京理科大学薬学部(東京都)
    • 年月日
      2011年11月28日-29日

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公開日: 2013-07-10   更新日: 2013-08-07  

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