生きた細胞の中で大きな蛍光標識の影響を受けずに低分子化合物を観察するための新しいイメージング法として、「アルキンタグラマンイメージング」の開発を行ってきた。これまでに概念実証を行い、一般性に関する知見を積み重ねてきた。得られた構造ーラマンシフト/強度相関をもとにして、複数のアルキン標識化合物の同時観察や、生細胞中に存在する化合物の半定量解析が行えるようになってきた。 ラマン分光法は古くから構造解析に用いられてきた実績があるように、分子の構造情報を取得できることが長所に挙げられる。そこで、ラマンタグを分子の構造変化と連動させることができれば、生細胞中に存在する分子の構造情報が得られると考えた。モデル化合物として、ATP合成の脱共役剤FCCPに着目した。FCCPはラマンタグとして利用可能な二つのニトリル基を含む広い共役系を持つ化合物であり、強いラマン散乱を示すこと、共役系に関わる構造変化によりニトリルのラマンシフトが変化することが期待できる。プロトン化されたFCCPと脱プロトン化されたFCCPのラマンスペクトルを測定した結果、二つの状態間でニトリルのラマンシフトに大きな差があることを見出した。次にFCCPを処理したHeLa細胞のラマンイメージングを行い、脱プロトン化されたFCCPの分布とプロトン化されたFCCPの分布を区別してイメージングすることに成功した。脱プロトン化されたFCCPは比較的細胞質全体に分布しているのに対し、プロトン化されたFCCPは粒状の分布をしており、脂質と共局在していた。 以上のように、ラマンタグを共役系に上手く連動させることにより、生細胞中に存在する化合物の分布のみならず、構造情報を得ることができた。FCCPは一例に過ぎないが、今後様々な低分子化合物に本法が適応されると期待される。
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