本研究は、カブトガニの行動を短期・長期的に記録するためにバイオロギングとバイオテレメトリーの双方の利点を有効に生かした調査技術を開発し、最終的にはこれまでまったく明らかでなかった野外におけるカブトガニの生活史を解明することを目的としている。平成23年度から24年度にかけては、加速度データロガー(Gロガー)と加速度超音波発信器(ピンガー)をもちいてカブトガニの行動を推定するための調査技術の開発を試みた。また、深度ロガー(Dロガー)を10個体の成体に装着して、野外へ放流した。平成25年度には、これまでに開発した技術を生かして、Gロガーとピンガーをもちいて野外におけるカブトガニの活動周期について解析した。その結果、カブトガニの活動周期が昼夜と潮汐サイクルの影響を受けた概日リズムを示すことが明らかになった。また、Dロガーをさらに10個体へ装着して放流し、放流したカブトガニのうち6個体を再捕獲して、最長528日間のカブトガニの行動データを得ることができた。繁殖期から越冬期に至る長期間の活動の周期性と越冬場所の推定を行った結果、越冬場所が笠岡湾付近の浅海域であることや、越冬期間が年間の約半分に相当し、その海域の保全の重要性が示された。また、幼生生息地である干潟で、定期的な幼生の観察を行った結果、野外環境では飼育環境よりも幼生の成長速度は速く、これまで予想されていたよりも成体に達する期間が短いことなどが示された。以上の結果から、本種とその生息地の保全を行う上で重要な情報である、カブトガニ成体の概日リズムや概年リズム、さらに本種の生活史を知る上で重要な情報となる、成体に達する幼生の成長速度に関する情報が得られた。以上の成果については、投稿論文をまとめており、平成26年度の笠岡市立カブトガニ博物館の特別展示を通じても紹介する予定である。
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