最終年度はマレーシアでの観光開発と在地の社会関係の接合様式に関する補足的な現地調査および文献資料収集に従事した。現地調査以外にも日本国内での資料収集や先行研究の整理に従事し、その成果を学術論文としてまとめた。また国内および国外の学会で研究成果に関する研究発表を行った。 本研究プロジェクトでは研究期間を通じ、サラワク州の州都クチン、ビントゥル省、ミリ省、カピット省におけるエスニック・ツーリズムや手工芸品の制作・販売といった活動が、在地の社会関係の中にいかにして接合されているのか、をテーマとした調査を行った。特に狩猟採集民や焼畑耕作民、華人、マレー人といった多様な民族集団がいかにしてエスニックかつエキゾチックなイメージが付与されがちであるサラワク州の観光に参与しているのか、そしてこれらの民族集団ごとの相互関係がいかにして当地のエスニック・ツーリズムや手工芸品の制作・流通・販売を特徴づけているのかに関する地域的な特徴を明らかにした。またサラワクを越え、マレー半島やその周辺地域でサラワクの手工芸品がいかにして販売されているのかに関する調査も行った。結果として、サラワク州におけるエスニック・ツーリズムは、「エスニック」や「エキゾチック」なイメージが付与されているものの、現地の人々や現地の観光業従事者の文化的自画像と、外来の観光客がサラワクを訪問する際の期待には齟齬が存在しがちであること、およびエスニックな手工芸品は必ずしも外国人や都市住民を対象として制作・販売されるだけでなく、現地の人々の婚姻をはじめとする各種の儀礼の際にも用いるために制作・販売されていることが明らかになった。
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