研究課題/領域番号 |
23710310
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
松田 正彦 立命館大学, 国際関係学部, 准教授 (60434693)
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キーワード | ミャンマー / サイクロン / 高潮 / 稲作 / 国際協力 |
研究概要 |
本研究は、ミャンマーで2008年に発生したサイクロン災害を主な事例として、当初の期待通りに復興が進んでいない生業セクター(特に稲作農業)における被害把握や復興支援活動の一連のプロセスを農学や生態学の観点から検証し、復旧・復興が遅延したメカニズ ムを解明することを目的としている。具体的には、被災地域の住民の主生業であり復興支援の主な対象でもある稲作農業に焦点を絞り、(1)稲作農業の被害実態と分布特性、(2)稲作農業への復興支援の内容と分配メカニズム、(3)稲作における被害(支援ニーズ)と支援とのマッチング/ズレの実態、を明らかにすることを試みる。その上で、自然災害への緊急支援・復興支援の分野において、これまで有効利用されてこなかった農学・生態学的な地域特性情報の活用可能性を提示することを目指している。 2012年度は、これまでに準備を完了した現地研究協力機関によるエーヤーワディー・デルタにおける農村現地調査を追加実施し、稲作回復状況などに関する農家レベルデータ収集とデータ整理をおこなった。これにより直近の作期でも稲作の収量回復が進んでいない地域とその減収程度が明確になった。また、ヤンゴンやネーピードーにおいて、復興支援活動に関する聞き取り調査と資料収集を実施し、関連する開発NGOや政府機関の復興支援活動の状況を把握した。それにより支援活動の内容や活動場所の選定のプロセスに関する情報が得られた。また、現時点までの研究成果を学会報告や学術論文として公表した。加えて、他地域における農村部の自然災害事例に関する資料収集をおこない、共通する課題と途上国災害の特性を分析する材料を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的のひとつである稲作農業の被害実態と分布特性の解明に向けたデータ分析は順調に進んでおり、現時点までに得られた情報に基づく考察結果を学会報告と学術論文のかたちで公表することができた。さらに追加調査によりデータの補足が完了したため、この目的が達成する見通しがたった。これと支援活動に対する調査結果を組み合わせることで、他の研究目的――稲作農業への復興支援の内容と分配メカニズム、および稲作における被害(支援ニーズ)と支援とのマッチング/ズレの実態の解明――を達成できると考えている。ミャンマー国の政治情勢の変化に応じて、データ取得手段における若干の計画変更をおこなったが、ミャンマー国農業灌漑省の継続的な協力もあり、研究遂行に大きな支障はない。以上からおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
追加収集した稲作回復状況についてのデータの分析とこれまでの成果との統合をすすめ、長期的な稲作の被害継続と回復の実態を明らかにする。加えて、復興支援に関する定性的データをさらに収集し、稲作農業への復興支援の内容と分配メカニズムを分析する。ミャンマー国の政治経済状況の近年の急激な変化がもたらす支援状況への影響がみとめられるため、この点については現地での情報収集が今後も重要かつ必要であると判断し、引き続きこの点の調査分析にも注力する。これらの成果から当該事例における被害(支援ニーズ)と支援との整合性について考察する。また、ミャンマー・サイクロン被災事例で明らかになった知見の一般化と途上国における事例の特性を検討するため、引き続き他地域における農村部の自然災害事例について二次資料を収集・分析する。さらに、ミャンマー全土における農学・生態学的な在来知についての情報を蓄積し、それらが維持されている背景や活用実態について整理した上で、それらの(復興時を含む)開発における有効活用の方策について考察する。 2011年度に国際機関・NGOによる復興支援活動についての聞き取り調査・資料収集のための現地調査を実施しなかったため未使用額が生じていた。2012年度に当該調査の一部を実施したが、上記の通りその重要性と必要性が確認されたため、2013年度にも追加実施する予定である。ここに当該研究費を割り当てる(上記、復興支援に関する定性的データの追加収集に該当する)。
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次年度の研究費の使用計画 |
①研究代表者のミャンマーへの現地調査経費として使用する。エーヤーワディー・デルタにおける農村現地調査を実施し、復興支援活動や被害回復状況などに関する農村レベルデータ収集とデータ整理をおこなう。また、ヤンゴンやネーピードーなどにおける復興支援活動に関与している機関等への聞き取り調査と資料収集の実施も引き続き実施する。さらに、現地研究協力機関とヤンゴンまたはネーピードーにおいて本研究の実施に関する協議と成果共有のためのミーティングを実施するが、これにかかる費用も含む。②現時点までの研究成果を学術論文として公表に関する経費として使用する。論文作成・投稿・公表にかかわる費用である。③他地域における農村部の自然災害事例に関する資料収集などにも研究費を使用する計画である。④ミャンマー全土における農学・生態学的な在来知についての情報を広く獲得し情報を共有するため、関係する研究者らを招聘した研究会を開催する予定である。これら4点がおもな使途である。
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