本研究は、ミャンマーで2008年に発生したサイクロン災害を主な事例として、当初の期待通りに復興が進んでいない生業セクター(特に稲作農業)における被害把握や復興支援活動の一連のプロセスを農学や生態学の観点から検証し、復旧・復興が遅延したメカニズムを解明することを目的としている。具体的には、被災地域の住民の主生業であり復興支援の主な対象でもある稲作農業に焦点を絞り、(1)稲作農業の被害実態と分布特性、(2)稲作農業への復興支援の内容と分配メカニズム、(3)稲作における被害(支援ニーズ)と支援とのマッチング/ズレの実態、を明らかにすることを試みる。その上で、自然災害への緊急支援・復興支援の分野において、これまで有効利用されてこなかった農学・生態学的な地域特性情報の活用可能性を提示することを目指している。 2013年度(最終年度)は、計画通りミャンマーでの現地調査を実施した。まず被災地農村の復旧状況を確認し、これまでに得たデータを合わせて被害の復旧状況を把握した。次に現地で活動を続ける国際NGOや国内NGOへの聞き取り調査をおこない、復興支援に関する支援側の状況を明らかにした。また、東日本大震災(日本)とスマトラ沖地震(インドネシア)における復興支援に関する二次資料の収集をおこない、共通する課題と途上国災害の特性を分析する材料を整備した。さらに、ミャンマー全土の農学・生態学的な在来知に関する研究会を開催し、それらが維持されている背景や活用実態を整理し、開発における有効活用の方策を検討した。 研究期間全体を通じて、一般的な被害(人的被害・家屋損壊)と稲作被害の程度が必ずしも一致しないこと、それが多様な生態的基盤に適応した稲作システムの相違に基づくこと、復興支援の対象地や支援内容の選択において反映されがちな援助側論理の農業分野における特性などを明らかにした。
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