研究課題/領域番号 |
23710314
|
研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
吉本 康子 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 外来研究員 (50535789)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 国際情報交流 / ベトナム / アメリカ / カナダ |
研究概要 |
本研究課題は、現在のベトナム中部から周辺の東南アジア各国、アメリカ西海岸などに拡散したチャム系住民のイスラーム的宗教実践を比較検討することで、イスラームの要素とローカルな要素の交渉過程の多様性および民族・宗教ネットワークの関係性について検証することを目的としている。 交付申請書に記載した研究実施計画に基づき、本年度は、ベトナム・ホーチミン市のフランス文化センター、ホーチミン社会人文科学大学等におけるインドシナ半島のチャムに関する関連資料の閲覧と収集、および、ベトナム、アメリカ合衆国のチャム人コミュニティーにおける現地調査を行った。ベトナムの現地調査では、中南部に暮らす「イスラーム教徒」チャム・バニの社会で用いられている「クルアーン」等、イスラーム関連写本についての聞き取りや、中南部およびホーチミン市内のモスクにおける儀礼や礼拝を観察した。アメリカでは、カリフォルニア州ロサンゼルス近郊にある3つのモスクを訪問し、クルアーンの朗誦を含む宗教的な実践やコミュニティーの形成過程、移住の経緯、本国との関わりなどに関する聞き取り調査を行った。なお、これらの研究成果の一部は、カナダ・トロントで開催されたThe Association for Asian Studiesの研究大会において発表した。 本年度の研究活動の意義は、まず第一に、近現代のインドシナ半島におけるイスラームの影響についての情報の空白をある程度埋めることが出来た点にある。とりわけ、戦争が激化していた1960年代から1970年代の南ベトナムにおける再イスラーム化の影響とチャムの関係について、当事者へのインタビューを通して明らかに出来た意義は大きい。また各地域で使用されているクルアーンを比較できたことは、チャムというエスニシティの重層性だけでなく、「イスラームの共通項」の多様な展開を示す資料を提示しうるという点で重要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3年計画で進めている。本年度の研究計画は、先行資料の収集と分析を目指した文献調査および現地調査行うことである。 文献調査は、日本国内をはじめベトナムとアメリカの関連諸機関や関係者を訪問し、実施した。関連資料の網羅的な収集は今後の課題であるが、本年度は主要な資料の収集と分析を行うことが出来た。 現地調査は、ベトナムとアメリカ合衆国において進めることが出来た。ベトナムにおける調査では、あらかじめ準備した項目(「クルアーン」等、イスラーム関連写本の内容、使用法、儀礼的実践等々)に基づいて調査を実施した。アメリカ合衆国では、ベトナムやカンボジアからのチャム系移民の実態とイスラーム的な宗教実践をめぐる内部の葛藤等についての予備的な調査を、モスクの代表者や関係者へのインタビューを通して実施した。申請者にとっては今回が初めてとなるアメリカの調査では、今後の調査を継続していく上での関係とネットワークを構築することが出来た。 以上の理由から、当初の目的に基づく調査はおおむね順調に進展していると評価できる。とはいえ、本年度の実施を計画していた関連資料についての調査、中でも、豊富な資料を保管しているとみられるフランス、パリの国立文書館、エクサンプロヴァンスの海外文書館、フランス極東学院、また、アメリカ・コーネル大学の図書館などにおける文献調査は遂行できず、来年度以降に実施する見込みである。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の活動を踏まえた本研究課題の今後の推進方策は、以下の通りである。 まず調査対象地域に関して、交付申請書に記載した予定を若干変更する。本研究課題は、カンボジア、ラオス、中国、タイ、マレーシア、アメリカ合衆国の各国におけるチャム系住民のコミュニティーやモスクでの調査を予定しているが、このうちカンボジアに関しては、申請者が「研究分担者」として参加している別の科研費プロジェクト実施の際に、併せて調査することにする。また、フランス・パリにあるモスクを調査対象地域に加えることにする。従って、来年度以降は、フランス、タイ、続いて、マレーシア、中国、ラオスの各地域において現地調査を進める予定であるが、必要と予算の状況に応じて再度アメリカ合衆国への渡航も視野に入れる。 次に、調査項目の内容に関して、礼拝空間、制度、礼拝・儀礼的実践についての名称・語源・内容、儀礼に使用される文書(チャム語写本の使用状況)、国家による位置づけなどコミュニティーの形成に関わるものだけでなく、インフォーマントの来歴と本国との関わりについても随時聞き取り調査を行うことにする。 なお、本年度に予定していたフランスでの調査を実施しなかった等、研究計画に若干の変更があったために生じた今年度の繰越額は、次年度の調査費として使用する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は、以下のとおりである。 まず、本研究課題に関連する国内の学会やワークショップ等への参加や、関連諸資料の収集を合計10日間ほど予定している。また、フランスの国立文書館や海外文書館、チャム系住民が暮らす地区でのモスク等、関連諸機関における資料の収集と現地調査を、合計15日ほど行う予定である。これらに加え、タイのバンコクにあるチャム系移民集住地区での調査を6日間程実施する。まず、以上の調査にかかる旅費として次年度の研究費を使用する予定である。 また、収集した資料のうち、とりわけ専門的な知識が必要となる資料の整理のための「指導等謝金」等として、研究費を使用する予定である。
|