研究課題/領域番号 |
23710314
|
研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
吉本 康子 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 研究員 (50535789)
|
キーワード | 国際情報交換 / カンボジア |
研究概要 |
本研究は、ベトナム中部から東南アジア大陸部のメコン川流域、中国・海南島およびアメリカ西海岸などに拡散し、ムスリムとして暮らすチャム系住民の宗教実践、とりわけ、イスラームの共通項とされる諸実践を比較検討することで、イスラームの要素とローカルな要素の交渉過程の多様性および民族・宗教ネットワークの関係性について検証することを目的としている。この作業を通じて、各地における「イスラーム」の展開に関する新資料を提示し、さらに、イスラームの「多様性」や「統一性」という視点の有効性について考察する。 平成24年度は、国内における先行研究及び先行資料を収集し、前年度までに収集することができた資料・史料と併せて、それらの分析を中心に作業を進めた。 具体的には、ベトナム、カンボジア、タイ、マレーシア、アメリカ合衆国のチャム系ムスリムを対象とする先行研究や資料を対象に収集と分析を行った。とりわけ、現在もベトナム中南部のチャムに用いられている「イスラーム写本」の内容の分析を中心に作業を進めた。 ベトナムのチャムのイスラーム写本は、本研究課題が着目する「イスラームの共通項」のひとつ「クルアーン」と、チャムのイスラーム的宗教実践との関わりを明らかにする上で必要な調査対象であり、今後、他地域のチャム人コミュニティーにおけるイスラームの展開の在り方を比較検討していく上で、基礎的な情報を提示する資料である。 以上の問題意識の基づいて進めた研究活動を通して、本年度は、従来の研究がクルアーンと同一視して説明してきたチャムのイスラーム写本の実態と多様性を明らかにすることができた。これらの資料は、東南アジアの中でも早期にイスラームを受容したとされるにも関わらず現在に至るまで空白部分が多いベトナム中部の歴史を、「当事者の視点」から解明していくための第一次資料となる可能性があり、今後の研究の発展にとっても重要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3年計画の2年目にあたる本年度は、昨年度に計画したフランスの国立文書館や海外文書館、およびタイのバンコクなどにおけるフィールドワークを変更し、昨年度までに収集することが出来た史料の分析や広島大学付属図書館等における関連資料の収集と分析などの文献調査、および、代表者が「研究分担者」として参加している別の科研費プロジェクトの実施と併せて、カンボジアでの現地調査を実施した。 文献調査は、ベトナムのチャムの「イスラーム写本」の分析と、平成7年度から9年度まで科学研究費によって行われた「東北タイ・ラオス・カンボジアのムスリム社会の学術調査」(代表者:今永清二)関連の報告書など、広島大学が所蔵する関連資料の収集と分析を行った。また、これらの資料と照らし合わせながら、代表者が研究分担者として参加している「東南アジア大陸部における宗教の越境現象に関する研究」(代表者:片岡樹)の調査と併せて、カンボジアでの現地調査を行った。カンボジアでは、ウドン周辺の3つのモスクを中心に、礼拝の観察や聞き取り調査を実施した。また、写本などの史料の撮影も行った。 昨年度のベトナム、アメリカに加え、カンボジアでの調査を行うことで、各地域のチャム系ムスリムコミュニティーのイスラーム的宗教実践の比較が可能になった。とはいえ、本研究課題の計画であるタイ、マレーシア、ラオス、中国・海南島、そしてフランスでの調査は実施できておらず、本年が最終年度であることを考えると、やや遅れているといえる。 達成度がやや遅れている理由は、当初の予想以上に収集し得た一次史料に関する情報が、今後、他の地域との比較を行っていく上で重要であると考え、それらの分析を優先するために計画を練り直したことによる。なおこうした計画の練り直しは、今後、フランスやアメリカの各文書館における資史料の保管状況を調査する上でも必要と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の活動を踏まえた本研究課題の今後の推進方策は、大まかには以下のとおりである。 調査対象地域に関しては、ラオス、中国、タイ、マレーシアのチャム系ムスリムのコミュニティーへの訪問を優先して行う。調査項目の内容に関しては、本年度と同様に、礼拝空間、制度、礼拝・儀礼的実践についての名称・語源・内容、儀礼に使用される文書(チャム文字写本の使用状況)、国家による位置づけなどコミュニティーの形成に関わるものだけでなく、インフォーマントの来歴と本国との関わりについても随時聞き取り調査を行うことにする。 なお、本年度に予定していたタイとフランスにおける調査を実施しなかった等、研究計画に若干の変更があったために生じた今年度の繰越額は次年度の調査費として使用する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は、以下のとおりである。 本年度の前半は、専門的な知識が必要となる資料の整理のための「指導等謝金」等として、研究費を使用する予定である。夏季休暇以降は、年度末の成果のまとめを視野に入れながら調査項目の的を絞り、タイ、ラオス、マレーシア、中国の海南島においてそれぞれ5日から7日間程度の訪問調査を実施する。研究費はこれらの旅費としても使用する予定である。 また、次年度は最終年度に当たるため、成果報告書の印刷にも研究費を使用する予定である。
|