研究課題/領域番号 |
23710321
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
村上 潔 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (00588402)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 女性労働 / 女性の貧困 / 協同労働 / 協働 / 共助 / 地域社会 / 主婦 / ワーカーズ・コレクティブ |
研究概要 |
◆具体的内容 平成23年度は、研究課題に関連する3冊の書籍を刊行することができた。(1)立岩真也・村上潔『家族性分業論前哨』(生活書院、2011年12月刊)、(2)天田城介・村上潔・山本崇記編『差異の繋争点――現代の差別を読み解く』(ハーベスト社、2012年3月刊)、(3)村上潔『主婦と労働のもつれ――その争点と運動』(洛北出版、2012年3月刊)である。加えて、研究論文として、(4)村上潔「労働基準法改定の動静における女性運動内部の相克とその意味――「保護」と「平等」をめぐる陥穽点を軸として」(『現代社会学理論研究』第6号〔人間の科学新社〕、2012年3月刊)を発表することができた。学会報告としては、(5)「「消費者」から先に進んだ主婦たちの協同労働実践から30年――顕在化した課題の指摘」というタイトルで、 同時代史学会第3回関西研究会(2012年2月19日、於:関西学院大学大阪梅田キャンパス)にて個人報告を行なった。以上の5点が本年度の主な研究実績となる。 調査の面では、名古屋市と長崎市に赴き、現地での女性を中心とした協働の取り組みをフィールド調査することができた。◆意義、重要性等 (1)~(3)は、いずれも(学術的な内容でありつつ)一般書籍として書店に並んだもので、本研究課題に関わる内容を広く世の中の人に知ってもらう機会を作ることができたと自負している。労働問題・貧困問題に携わる関係者だけでなく、女性運動・女性文化論の分野の方々からも良好な反応を頂戴している。また、研究論文(4)は、本研究課題が扱うテーマの歴史的背景を解明したものとして、社会学的かつ歴史学的な意味があるといえる。(5)は、主に歴史学の研究者に対して、社会学・社会運動論・女性運動論の立場からの問いかけを行なったものである。これも、領域横断的な試みとして、一定の学術的意味を有したと考える。また、フィールド調査では次年度への足がかりを作った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、東京を拠点とする〈女性と貧困ネットワーク〉に関する調査は、十分に進展させることができなかった。その理由は、同ネットワークの活動自体が、平成23年度に入り滞ったことによる。震災後、ネットワークのメンバーたちの多くは個別の活動現場での課題に対応することに奔走し、ネットワーク単位での具体的な取り組みはほとんどなされていない。その一面、主要メンバーである栗田隆子氏が拠点を横浜から大阪に移したので、年度内に3回ほど京都で情報提供を受けることができた。 ワーカーズ・コレクティブに関する研究は、上記『差異の繋争点』所収の論考(村上潔「主婦の労働実践としてのワーカーズ・コレクティブの岐路――「依存」と「包摂」のあいだで」)において一定の更新を遂げることができた。とはいえ、年度内には個別のワーカーズ・コレクティブへのフィールド調査を遂行することが叶わなかったので、これは次年度に繰り越した課題である。 平成23年度にまずフィールド調査の対象としたのは、愛知県名古屋市の〈ナゴヤ駅西 サンサロ*サロン〉である。同所は、様々な要因で労働現場から排除された人々が自由に集う、共助運営的なスペースである。このサロンの月例ミーティングに参加し、サロン利用者の人々から話を聞くことができた。また、代表の藤原はづき氏とは定期的に情報交換を行なっている。 加えて2012年2月には、長崎県長崎市でのフィールド調査を行なった。市民の協働の取り組みをサポートしている〈長崎市市民活動センター ランタナ〉を見学し、現場のスタッフから話を聞くことができた。また、〈長崎市男女共同参画推進センター アマランス〉を訪問し、市内の女性たちの自律的な活動に関する情報を収集した。 平成23年度は、当初の計画に変更を加えたものの、結果、理論的な論考の発表とフィールド調査とをそれぞれバランスよく行なうことができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策を述べる。 平成23年度は、論文執筆、書籍の編集といった作業が当初の想定よりも多分になり、予定していたフィールド調査の規模を縮小せざるをえなかったため、旅費等において未使用額が生じた。次年度では、本年度予定していた調査の繰り越しも含め、フィールド調査の頻度をより高めて実施する(本年度の未使用額をこれにあてる)。 具体的には、(1)引き続き、名古屋市の〈ナゴヤ駅西 サンサロ*サロン〉へのフィールド調査を定期的に行なう。2012年5月には同サロン主催でシンポジウム「地域生活支援と社会的包摂――いま一度、「包摂」を問い直す」が名古屋市で開催されるので、これに参加し、さらに調査対象を広げていく可能性を模索したい。(2)加えて平成24年度には、新たに、福岡県宗像市の〈むなかた市民フォーラム〉をフィールド調査の対象とする。代表の井上豊久氏(福岡教育大学教授)とはすでにインターネット上で交流があるので、現地で実際に活動している女性たちを紹介していただく予定である。また、宗像市在住で井上氏とも深い交流がある作家・詩人の森崎和江氏とも現地で対面し、九州における女性たちの自律的な活動の意義について話を聞く予定である。(3)各所のワーカーズ・コレクティブの事業体・活動組織への調査は、適宜状況を見て実施する。全国的なシンポジウムなどが開催される際にはそれに参加する。 村上が拠点とする京都では、〈反貧困ネットワーク京都〉が、貧困とジェンダーの関係を強く意識した活動を展開してきているので、そこに積極的に参与することで、研究の枠組みを広げていきたいと考えている。 成果の発表としては、学術誌への論文投稿2本、学会報告1本を予定している。また、市民向け講座〈京都自由大学〉での講義など、アウトリーチ活動も積極的に行なっていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、2012年3月31日に刊行した自著『主婦と労働のもつれ――その争点と運動』(洛北出版)を、研究協力者の方々に送付するので、その費用が必要である。また、同じく3月31日に刊行された論文「労働基準法改定の動静における女性運動内部の相克とその意味――「保護」と「平等」をめぐる陥穽点を軸として」(『現代社会学理論研究』第6号)の抜刷を業者に発注して作成し、研究協力者の方々に送付するので、その費用も必要となる。 次年度はフィールド調査を精力的に行なう予定なので、旅費が今年度以上に必要となる。 理論的な内容を論文を執筆するため、女性の協働をテーマとしたフェミニズム関連の英語書籍をまとめて購入する。 国内の、フェミニズム関連の論集・資料集や、映像資料などを随時購入する。
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