研究課題/領域番号 |
23710322
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
豊田 真穂 関西大学, 文学部, 准教授 (20434821)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アメリカ / 日本占領 / ジェンダー / 女性解放 / 社会政策 / リプロダクティブ・ライツ / 性と生殖の権利 / 家族 |
研究概要 |
本研究の目的は、性や生殖のコントロールに焦点を当てることで、アメリカ占領下の日本における「女性解放」政策の歴史的意義を再評価することにある。今年度は、特にバースコントロール(産児調節)をめぐる政策をアメリカ本国におけるバースコントロール運動の歴史との連続性の中から検討した。バースコントロールは出産や家族に直接的に介入することを認める一方で、「女性解放」の基礎ともいえる。つまり女性の「解放」の原点が、女性身体への「介入」をともなうのである。こうしたバースコントロール運動がもつ両義性が、占領期という日米の互いに異なるジェンダー観がせめぎあう場において、複雑に絡み合いながらも明らかになっていく過程をおった。その結果、戦前から優生運動の世界的な中心にいた米国と、米や独等の優生政策に影響を受けた戦時下からの日本の流れが占領下で結びつき、その一方でナチドイツの経験を経た戦後では、「隠された意図」としての優生思想が発現した事例としてバースコントロールが扱われていたことを明らかにした。 また、国家が直接的に性と生殖をコントロールしたハンセン病療養所内における「断種・不妊化手術」および強制的な「人工妊娠中絶」を事例にして、日本政府とアメリカ占領軍とが、最も抑圧された人びとのリプロダクティブ・ライツをいかに軽視していたかを明らかにする研究を進めた。これは優生思想の隆盛とも密接に結びついており、優生学とジェンダーがどのように絡み合うのかを戦前からの流れを追うことが、今後の課題となる。さらに「占領統治」という視点から戦前の日本と戦後の米国をみていくことで、統治主体としての両者の共通点を明らかにすることも今後すすめていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカ占領下の日本における「女性解放」政策を、性や生殖のコントロールに注目することによって、政策の再評価を目指す本研究において、本年度は、最初のステップとなったといえる。これまで占領下の「女性解放」政策は、既存の研究によって高く評価されてきた。これに対して本研究では、「女性解放」の基礎となるべきバースコントロールが、実際には女性身体への公権力による「介入」を伴うだけでなく、優生思想を正当化することによって、さらなる抑圧を生んだことが明らかにしてきたからである。優生思想とジェンダーとの関連や、戦前からの優生運動およびバースコントロール運動の流れのなかで占領期を位置づけることは今後の課題ではあるが、どのような層の人びとがバースコントロール運動の対象となったのかを探り、そうした政策の具体的な内容を明らかにすることは、どのような市民が「家族」を形成すべきで、形成すべきでないのは誰かを明確化することになる。そしてそれは、占領期という日米のジェンダー観が出会う場で、どのようなせめぎ合いと協調関係をつくりだしたのかを知るという本研究の第一ステップといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、GHQ/SCAPの政策立案に重要な役割を果たしたアメリカ人に関する資料、および日本のバースコントロール運動に影響を与えたアメリカ人運動家等の資料の2種類ものを調査するため、プリンストン大学マッド図書館、スタンフォード大学フーバー研究所文書館、ハーヴァード大学カウントウェイ図書館、ハーヴァード大学シュレジンガー図書館、スミス大学図書館、ロックフェラー財団文書館等に所蔵されている文書類を主に調査・収集する予定である。 本年度は、新しい課題の研究報告を海外で行うことを予定していたが、開催者側から交通費・宿泊費等が支出されることになったため、予算の執行ができないままになった。また自宅を東京に転居したことから、勤務校の規則によって、東京往復分の交通費を支出できなかった。今年度はこれらの余剰分の多くを専門家による助言を得ること及び英文校閲への謝金に変更した。そのため次年度に使用する予定の研究費は、アメリカ国内での移動も考えると長期間の滞在が予想されるため、主に外国出張に充てたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
GHQ/SCAPの人口問題顧問であったWarren Thomposonのもとで人口問題を学んだFrank Notesteinの個人文書を、ニュージャージ州にあるプリンストン大学マッド図書館(Mudd Library)にて調査・収集する。また、GHQ/SCAPのうち、公衆衛生福祉局(Public Health and Welfare Section, PHW)の局長をつとめたCrawford F. Samsの個人文書は、米国カルフォルニア州にあるスタンフォード大学フーバー研究所文書館(Hoover Institute)に所蔵されているため、これも同時に調査・収集する。 本調査出張中には、ニュージャージ州からメリーランド州にまで足をのばし、当地に住む元GHQ/SCAPの女性スタッフであるカラス(Mead Smith Karras)氏を訪ねる。彼女にインタビューを行うことで、文書資料から明らかになり得ない当時の状況を把握し、分析する。その際、できる限り次年度に調査予定の文書に関する予備調査も行う。 これらの研究を踏まえて、バースコントロール政策に関するGHQ/SCAP側の指示とその思想的背景を分析し、論文を発表する計画である。
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