研究概要 |
本研究の目的は、日本とイタリアにおける女性の仕事と家族の両立の状況と、両国の制度的「男性稼ぎ主」指向との間の齟齬、それによる福祉の「逆機能」の解明にあった。具体的には次の3点が研究実績である。 第1、日本とイタリアの広義の福祉制度における男性主稼ぎ主型モデルの不変性に着目し、広義の福祉(社会保障)制度の創設過程の分析を通じて、男性主稼ぎ主型モデルの形成過程を検証した。その結果特にイタリアでは、南北問題や政治的な特徴に加えて、近代国家形成期から続くカトリック教会のインパクトの強さとそれによる私的領域への国家の介入への消極性が存続したこと。さらにヨーロッパ各国で普遍主義化の契機となった二つの世界大戦後と1960,70年代に、国外への大規模な移住があり、制度の普遍化が進まず、結果として工業化時代の「男性稼ぎ主型」制度が存続した。 第2、日本と両国のチャイルドケア供給では、いずれも祖父母の役割が重要である。これに対して、施設ケアの重要性は対照的である。イタリアでは、保育施設は、あくまで就学前教育施設であるため、親のフルタイムの就業を支える機能を有しているとは言い難い。またパートタイム雇用は日本ほど普及していない。このため母親の就業自体が困難である。また、それを補完する役割として、高齢者ケアほどではないが、外国人ケア労働者の役割が重要である。 これに対して日本では、1990-2010年の母親の就業形態、子の年齢、世帯構造を分析した結果、この間に最も増加したのが、核家族の0-2歳の子を持つ母親のパートタイム就業であった。このことは、特に首都圏における待機児童の問題と、実際の公的保育所におけるフルタイム、多子、低所得、ひとり親世帯の優先に代表される入所基準を考慮すると、「男性稼ぎ主+女性パートタイム」という日本やイギリスに特徴的な、家族と仕事の両立モデルに対して、逆機能を有した。
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