研究課題/領域番号 |
23720001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
見附 陽介 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (10584360)
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キーワード | 哲学 / 障害学 / 身体の承認 / 身体制度 |
研究概要 |
研究計画に従い、今年度は初年度に明らかにした身体と社会的構築環境との関係に関する理論的分析の成果を、より具体的な場面へと応用し、その関係の特性の解明を目指した。とくに『障害者の人権白書』やまた各自治体などが公開している障害者の差別事例、困難状況の事例などを集め、社会における身体の運用に関わる制度(以後〈身体制度〉と呼ぶ)の詳細を研究した。具体的には、社会における身体制度として三つの類型を見出した。一つは物理的身体制度であり、これは前年度の理論的分析を裏付けるものであった。他方で、物理的な身体制度だけでなく、記号的な身体制度と社会的(相互行為的)身体制度の所在も明らかになった。これらの研究結果とその分析を次年度中に論文にまとめる予定である。 他方で「身体の承認」に関する規範的研究を初年度より引き続き行い、とくに今年度は「マルチカルチュラリズム」の議論との比較の中で、身体の承認という問題がもつ特異な位置を明らかにした。具体的には、文化の多元的状況における承認と、障害の問題などに中心的に現れる身体の多元的状況における承認との、共通部分と異なる部分の両方を原理的な側面から明らかにした。この研究の成果は、今年度の日本倫理学会・第63回大会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、身体の問題に即して「社会的排除」のメカニズムを分析し、他方で身体の差異の承認による「包含」の必要性とその具体的な条件を提示することを目的とするものである。 身体が関わる場面における社会的排除の問題は前年度の理論的な考察から、今年度はより具体的な排除事例に基づく分析へと研究を展開しており、研究はおおむね順調に進展していると言える。 また同時に、排除に対置されるべき身体の包摂の問題を規範的観点から考察する点についても、多文化主義の規範と身体に関わる排除の問題を比較・考察するなかで知見を深められており、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度後半から行っているアクターネットワーク理論および他の技術論の成果に対する社会哲学的な分析を次年度も継続して行う。この研究は、身体を通じて一人一人の人間がいかにして社会的主体になるか、そして社会的主体になることを阻まれるかを研究する上で理論的基礎を提供するものとなる。この研究は、単に本研究の目的を達成するだけでなく、本研究の成果を今後の研究へと展開する際に必要なものとなる。 他方で、この技術と身体をめぐる理論的基礎に立つことで、身体の包摂あるいは身体の承認を実現するための条件が明らかになる。社会における身体的主体をめぐる技術的環境の問題と、身体の承認の問題を結びつけるために、次年度でとくに研究を行いたいのは「ケイパビリティ」の理念についての研究である。この「ケイパビリティ」によって、身体と環境の関係性のうちに生まれる「機能functioning」の問題に即して、排除の分析と包摂の規範とが統合されることを期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費:5,076円 英文校正費に用いる予定だったものが使用する必要がなくなったため上記未使用額が生じた。未使用額は次年度に図書購入などの物品費として使用する。
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