本研究の目的は、社会的排除の問題を身体論の観点から捉え直し、とくに「アーキテクチャ」の問題に焦点を当てることで、その物的水準での機制を探ることにあった。また並んで、そのような物的地平において身体と社会的包摂をめぐるどのような規範が成立し得るかを検討することも重要な課題であった。 研究計画に従って、平成24年度から平成25年度にかけては、とくにこの規範の問題に関する研究を行った。とりわけ承認に関わる多文化主義の規範を身体性のレベルへと拡張する試みを行い、その成果は論文「身体の承認と『障害』――多文化主義から身体の多元論へ――」として、2014年に発行される日本倫理学会の年報『倫理学年報』(第63集)に掲載されることが決定している。また、これと並行して平成25年度には、ケイパビリティ・アプローチを身体をめぐる規範の理論として読み替える試みも行い、この成果については「On the “fetishism” of goods: What did Sen criticize about Rawls’s theory of justice?」というタイトルのもとで、北海道大学応用倫理研究教育センターの第5回応用倫理研究会にて発表を行った。 また平成24年度までに行ってきたアーキテクチャと排除の問題に関しても、引き続き障害の問題に即して検討し、その成果については「排除と身体制度――障害の社会モデルの一視角として」というタイトルのもとで、障害学会第10回大会にて発表を行った。 研究期間全体を通じた成果としては、一つにはアーキテクチャによる社会的排除の具体的場面を身体論的に描き出す概念(「身体制度」概念)の発見を挙げたい。もう一つは、身体の承認という規範的問題の理論的フレームワークを明らかにした点を挙げることができる。これらのテーマは、平成26年度以降の新しい科研費研究テーマへと引き継がれる。
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