研究課題/領域番号 |
23720002
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村山 達也 東北大学, 文学研究科, 准教授 (50596161)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ベルクソン / 19世紀フランス哲学 / 笑い / 感情 |
研究概要 |
本年度は、1900年前後のフランスにおける心理学の基本文献の収集、ならびに、ベルクソン『笑い』の初版(1900年)と23版(1924年)の文献一覧を手掛かりとした文献収集を行った。また、それらの文献をもとに、当時の心理学と美学における「笑い」論について中心的に研究を行った。 この研究からは、ベルクソンの『笑い』を論じる上で一般的であったいくつかの視点を再検討する必要性が明らかになった。例えば、ベルクソンは笑いを「社会による懲罰」と規定し、「社会」という観点を導入したことの新しさを強調するが、笑いを社会や道徳との関係で扱うことは(さらには「懲罰」という特徴づけすら)ベルクソン以前にもなされている。また例えば(国内においてはおそらく、林達夫が岩波文庫の『笑い』の訳に付した解説の影響もあって)この本はモリエール論・古典喜劇論として遇される傾向があるが、笑いを論じるにあたってモリエールを参照し、具体例として挙げることも、当時においては少なからず見られることである。だからベルクソンは「社会」という観点を導入したりモリエールを論じたりしていないというわけではもちろんないが、そうした特徴づけだけではベルクソンの独創性を取り出すことができないのも確かなことである。最終的には、上記の成果を踏まえて、ベルクソンの笑い論の特徴を明確化する上でのいくつかの仮説的な見地を獲得することができた。 また、感情についての現代の哲学(心の哲学や道徳心理学に関わるもの)についても主要文献の収集と研究を行った。 この研究からは、ベルクソン哲学の全体を「感情の哲学」(とりわけ、感情の認知的役割についての哲学)の発展として整理し、その中に『笑い』を位置づけることの必要性が明らかになった。この見地は、より広い文脈からベルクソン哲学の意義を考える上でも極めて重要なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は、(1) 1900年前後における心理学を中心として資料収集を行い、当時の学問状況について、ならびにその学問状況の中で「笑い」という主題が持っていた意味について調査すること、さらに、(2) その調査に基づきつつ、ベルクソン『笑い』の検討を開始し、その哲学的重要性の解明を試みることであった。そして、それぞれについて一定の成果を収めることができた。 (1)については、リボやジャネならびにその周辺をはじめとして主要文献や主要雑誌を調査・収集し、また、心理学と関わる限りにおいて美学や道徳論についても資料調査・収集を行うなど、十分な成果を上げることができた。また、いくつかの著者(ならびにその著書への書評など)に集中して検討を行い、当時の諸学問の複雑な交錯のあり方や、その中で「笑い」という主題が持っていた意義についても一定の視点を獲得することができた。 (2)については、以上の成果と対比させることで、ベルクソンの『笑い』についての先行研究におけるいくつかの視座を相対化し、また、ベルクソンの「笑い」論の独創性についていくつかの仮説を立てることができた。さらに、感情についての現代の哲学を参照することで、『笑い』にとどまらずベルクソン哲学全体を再検討するための視点を手にすることもできた。これらの成果については、なお仮説にとどまるものもあるが、研究計画の初年度における方向づけとしては十分なものである。 以上から、本年度については、研究計画はおおむね順調に進展していると言うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
資料収集については、本年度に続けて心理学関係の文献を収集する。また、それと同時に、部分的には既に始めている美学・道徳論関係の文献、そして社会学関係の文献についても収集を開始する。また、本年度の調査・分析を踏まえて、当時の学問状況についての研究書を(哲学関係のものに加えて、心理学や社会学関係のものも)収集する。さらに、翌年度の総括に備えて、「感情」をめぐる現代の哲学の文献も収集する。 今後の研究の推進方策としては、大きく二つ、すなわち、(1) 以上の資料を踏まえつつ、1900年当時の学問状況の解明を進めること、さらに、(2) 本年度に獲得されたいくつかの視点と仮説をより綿密に検証していくことが挙げられる。後者についてより具体的に言えば、(2)-a ベルクソンの「笑い」論の当時における独創性をできるかぎり明確にすること、(2)-b 「感情の(とりわけ、その認知的役割についての)哲学の発展」という観点からベルクソン哲学全体を一貫して読み直し、その発展の中に『笑い』を位置づけること、(2)-c 以上の作業を通じて、ベルクソン哲学研究を離れたより広い哲学的文脈からベルクソンの「笑い」論の意義を明らかにすること、である。 また、以上の成果(の一部)は、平成24年度に開かれる国際シンポジウムで発表(フランス語)する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費については、以上の計画に基づき、1900年前後における文献(心理学、美学、道徳論、社会学などに関わるもの)、当時の学問状況についての研究書、感情についての現代の哲学の文献を購入する予定である。 旅費については、国際シンポジウム(国内開催)での発表を行う。また、資料調査の進展によって必要が明らかとなった場合には、国内外での資料調査を行う。 なお、次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことにより発生した未使用額であり、平成24年度請求額とあわせて、次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
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