研究課題/領域番号 |
23720002
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村山 達也 東北大学, 文学研究科, 准教授 (50596161)
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キーワード | ベルクソン / 19世紀フランス哲学 / 笑い / 感情 / 情動 |
研究概要 |
本年度は、ベルクソン『笑い』研究の一環として、ベルクソン哲学を「感情・情動の哲学」という観点から(とりわけ、感情・情動の認知的役割に注目して)読みなおし、その発展を辿ることを中心に研究を行った。その発展の中に『笑い』を位置づけることが最終目的であるが、本年度はその準備作業として、最後の主著『道徳と宗教の二源泉』を主な対象とした。感情・情動に特に注目したのは、「笑い」が伝統的には情念論の枠内で論じられてきたこと、そして、その観点を導入することで『笑い』の議論構成と独自性とをよりよく取り出しうると思われたことが主な理由である。『二源泉』を対象としたのは、初期著作における感情・情動については既に一定の研究の蓄積があるが、『二源泉』におけるそれについては十分な研究がなされていないことが主な理由である。 『二源泉』の(とりわけ第三章における)情動の認知的役割についての研究からは多くのことが明らかになった。なかでも、(1) 情動についての神秘家の証言は、神の存在についての単なる資料ではなく、より積極的な情報源として用いられていること、(2) その証言を用いてベルクソンがしている神の存在証明は「間接的存在証明」ないし「本性の開示による存在証明」とでも呼ぶべき、哲学史上でも特殊なものであること、が特に注目される。 文献調査については、前年度に引き続き、1900年前後のフランスにおける心理学と美学関係の書籍・雑誌論文の調査と収集を行った。ベルクソンが書簡その他で述べる「〈可笑しさ〉の定義の難しさ」が(1900年以前の文献を含めて)多くの著者に共有された見解であること、他方でその難しさの理由づけについてはいくらかの違いが見られることが判明したのが主な成果である。 次年度は、以上の成果をもとに、定義論ないし直観論という観点から『笑い』やベルクソン哲学を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標では、1900年前後の心理学・美学などの文献を分析し、それをもとにしてベルクソン『笑い』を分析する予定であった。だが、昨年度の「研究実績の概要」で述べたとおり、昨年度の研究によって、まずはベルクソン哲学を「感情・情動の哲学」という観点から(とりわけ感情・情動の認知的役割に注目して)読みなおし、その発展の中に『笑い』を位置づけることの重要性が明らかになった。まずはそうした仕方で『笑い』の特徴を明らかにすることは、文献調査の方針を決定し、効率を向上させるためにも必要であるように思われた。 よって、今年度の目標は、ベルクソン哲学を「感情・情動の哲学」という観点から読みなおすことであり、その中でもとりわけ、ベルクソンの最後の著作である『道徳と宗教の二源泉』における情動の認知的役割に研究の的を絞った。この目標は、以上の「研究実績の概要」で述べたとおり、十分に達成された。なお、この成果は、国際シンポジウムでフランス語で発表された。 文献調査については、1900年前後のフランスにおける心理学と美学関係の書籍・雑誌論文の調査と収集を行った。これについても、以上の「研究実績の概要」で述べたとおり、十分な成果を上げることができた。とりわけ、「定義」という観点からベルクソンの独自性を取り出す可能性が明らかになったことが大きな成果である。これによって、最終年度である次年度の研究課題を、当初よりも明確な仕方で定めることができた。 以上から、本年度については、研究計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
資料収集については、1900年前後のものについてはほぼ十分に調査・収集することができたため、それほど大がかりには行わない予定である。今後の研究の進展に従って、必要なものを適宜調査・収集する程度になる。 研究については、これまでの研究実績を踏まえつつ、『笑い』ないしベルクソン哲学を感情・情動論と定義論の二つの観点から分析することが主要な作業となる。(1) 感情・情動論については、ベルクソンの最初の著作である『意識の直接与件についての試論』や、最後の著作である『道徳と宗教の二源泉』における感情・情動論との関係に留意しながら、『笑い』の感情・情動論の内実と独自性を探っていく。その際、哲学史上の他の笑い論・情動論との比較も行う予定である。(2) 定義論については、ベルクソンの他の著作における「定義」の扱いを検討し、それとの対比のもとに『笑い』の定義論の内実と独自性について検討する。その際、近世の哲学者たちにおける「定義」との比較を行ったり、それらへのベルクソンの対処を『講義録』などをもとに調査することも重要になる。 なお、ベルクソン哲学に関して言えば、「感情」と「定義」は「直観」という概念のもとで統一的に論じうる可能性がある。それゆえ、研究の進展次第では、以上は直観論の研究としてまとめることになるかもしれない。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費については、1900年当時のものは既に収集がほぼ完了しているためあまり購入せず、上記の方策から要請される範囲で、近世哲学やその研究書、ならびに現代哲学の書籍を購入する予定である。 旅費については、研究に適合したシンポジウムがあれば海外での発表を視野に入れているが、国際シンポジウムにおけるフランス語での発表と海外研究者との意見交換は本年度に行うことができたので、今年度は国内での発表に重点を置く(ただし、原稿はフランス語でも執筆し、海外研究機関に送付する)予定である。 なお、次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことにより発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせて、次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
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