最終年度は、第73回日本哲学会(於北海道大学)においてウィトゲンシュタイン研究会のメンバーと「ウィトゲンシュタインの思想を通じて、何が変わって何が変わっていなかったのか」についてのワークショップを企画し、そこで「私が世界について語りうるためには何が必要か-主体の転換を通じたウィトゲンシュタインの連続性と非連続性-」というタイトルで発表を行ってきた。具体的には、命題と世界との一致(命題の真偽)についての前期・中期・後期・最晩期のウィトゲンシュタインの見解を取り出した上で、「一致を確かめる主体」が消去される前期・中期とその主体が世界の中に受肉する後期・最晩期との比較検討を行った。その上で、ウィトゲンシュタインにとって課題であった「思考可能性の限界」がどのように変化していったのかについての考察を行い、言語の可能性の条件のうちに主体が住まう世界の偶然的なあり方が包含されていく様を明らかにした。 本研究の全体としては、まず可能性の総体としての世界についての前期・中期・最晩期のウィトゲンシュタインの思想の変遷を明らかにした。前期『論理哲学論考』において命題間の否定関係のうちに捉えられていた論理空間が、中期において矛盾はしないが相互に排除し合う性質をもとに形成される文法体系へと分割されていき、最晩期においてそれが言語ゲーム内での否定可能性と言語ゲームを支える蝶番命題の否定可能性という多層的な構造をもつに至ることを明らかにした。その上で、ウィトゲンシュタインが前期から最晩期から一貫して探究していた言語の可能性の条件が、主体の受肉を通じて世界外的なものから世界内的なものに転換していることを明らかにした。
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