本研究の主な成果は、 1.D・ルイスが提示したラムジー的謙遜性をめぐる議論の哲学的含意を明らかにしたこと 2.法則の様相的身分を解明するための課題をはっきりさせたこと の二点である。D・ルイスは、組み合わせ原理と通性原理(それぞれ、法則の様相的身分が偶然的とする立場にとって重要な形而上学的原理である)を仮定したとき、「われわれは何が世界の基礎的性質であるかを本当は知りえない」ということが帰結してしまうことを指摘した。ここで言われている帰結がラムジー的謙遜性である(途中でラムジー化という操作が行われるため、とくにそのように呼ばれる)。ラムジー的謙遜性をめぐる議論はこれまで一種の懐疑論的議論として理解されてきたが、本研究ではそれを形而上学的原理の正当化をめぐる議論として捉えなおすことに成功した。また本研究ではその成果を踏まえて、法則の様相的身分を解明するには様相認識論の検討が必要であることを明らかにしている。とくに法則の様相的身分が偶然的であると主張するためには、影響力の大きいS・クリプキの議論に反対する形で様相認識論を展開する必要があることを確認した。本研究では、法則の概念の解明という課題に、近年注目を集めつつあるメタ形而上学の研究動向と結びつけながら着手することとなったが、このことからは形而上学の方法論検討への寄与という副次的成果を得ることができた。なお以上の成果を公表するための論文を執筆中であり、推敲のうえ平成24年度中には学術雑誌に投稿する予定である。また研究代表者は分析形而上学の入門書の分担執筆者として「様相」と「因果性」についての解説を執筆中であり、そこには本研究を通して得られた知見が反映されることになる。
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