研究課題/領域番号 |
23720009
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
三谷 尚澄 信州大学, 人文学部, 准教授 (60549377)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | セラーズ / 所与 / 感覚印象 / 倫理的直観 / カント |
研究概要 |
「若きセラーズの思想形成過程の解明」という目標を達成する一環として、交付申請書に記載された目的・計画に従いつつ、とくに次の諸点について明らかにした。 (1)C . I. ルイス派の代表的哲学者であるRoderick Firthとセラーズの論争をテーマとした論文を作成し、発表した。論争の主題となるのは、セラーズにおける「感覚印象」の取り扱いである。とくに、前期を代表する著作である「経験論と心の哲学」における「新規の導入」という観点からの感覚印象論と、「カテゴリーの置き換え」という観点から理解される後期感覚印象のあり方について、ファースとの対決というテーマを軸としながら両者の移行関係を明らかにするべく検討を行った。 (2)セラーズ哲学の方向性を根本的なところで決定づけたカント哲学との関係について、おもにセラーズにおける「知覚」理論の構造という観点から明らかにした。とくに、カントにおける「超越論哲学」の構想が、セラーズの知覚論においては「超越論的言語論」という独自の枠組みのもとに継承されていることを明らかにした。 (3)初期から後期にわたり、セラーズ哲学の主要な関心でありつづけた「倫理的直観主義」の問題について、それがセラーズ哲学においてどのような仕方で理解されているかを明らかにする研究を実施した。考察の軸となったのは、アリストテレス、オッカム、デカルト、イギリス経験論、パース、シュリック(論理実証主義)などとの歴史的影響関係と、その延長線上に構想された「規則に従うこと」をめぐるセラーズ独自の哲学的洞察の二点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究実施計画では、「若きセラーズの思想形成過程」という大テーマのもとで、「C. I. ルイス派基礎づけ主義との対決をめぐる研究」を推進することが本年度の目標であった。より具体的には、次のことが本年度の研究の目標であった: 「「所与」、「表象」、「感覚印象」といったセラーズ哲学の重要概念について、その哲学的分析のあり方に大きな影響を与えたC. I. ルイスの哲学と、その後継者であるチザム、ファースへと受け継がれた20世紀初頭ハーヴァードの哲学的伝統について」、また、「長く、複雑な過程をたどるC. I. ルイス派の基礎づけ主義者たちとセラーズの知的対話・対決のあり方について」明らかにすること これらの点については、研究成果として発表された論文において十分に明らかにすることができたと考えている。 ただし、公開された研究成果において言及されているのは、おもにファースの哲学のみであり、C. I. ルイス、チザムの両名とセラーズの知的交流をめぐる情報は、基礎資料としてのレベルで作成された研究成果がまだ公表されるにいたっておらず、この点で次年度以降に引き継ぐべき課題を残したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書に記載のとおり、「若きセラーズの思想形成過程の解明」という大テーマのもと、「倫理的直観主義」に焦点をあわせた研究を遂行する。より具体的には、(1)プリチャードとロスというふたりのオックスフォード・リアリスト、また、その思想史的源流であるクック・ウィルソンの哲学を取り上げ、そのあり方を明快に整理する。(2)その上で、オックスフォード・リアリズムの伝統が、若きセラーズの哲学形成にどのような影響を与えたのかを、文献学的踏査の成果に基づきつつ明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
クック・ウィルソン、プリチャード、ロスの三名について、その代表的著作・論考を収集する。いずれも、メジャーとは言い難い哲学者たちであるため、公刊著作の発見と購入には相当の金額が必要になることが見込まれる。 また、関連の文献について、国内で入手の困難な資料については、オックスフォード大学図書館でのリサーチと複写を計画している。これについて、オックスフォードまでの往復旅費と滞在費として相当額の経費の執行を予定している。 なお、当初予定していた海外出張一件が、研究の進捗状況により次年度に実施することとなったため、次年度使用額が発生している。
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