研究課題/領域番号 |
23720009
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
三谷 尚澄 信州大学, 人文学部, 准教授 (60549377)
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キーワード | セラーズ / カント / 倫理的直観主義 / ブランダム / ローティ / 社会プラグマティズム |
研究概要 |
「若きセラーズの思想形成過程の解明」という目標を達成する一環として、交付申請書に記載された目的・計画に従いつつ、とくに次の諸点について明らかにした。 (1)セラーズの提示する「倫理的直観主義」のあり方について、それを彼の認識論における「非推論的報告」の構造をめぐる分析の延長線上に位置づけ、その詳細を解明する論文を発表した。この研究成果は、「倫理的直観主義の研究」という本年度の研究テーマを推進するうえでの大きな達成であると考えることができる。 (2)関西倫理学会において開催されたシンポジウム「直観と倫理」の記録に基づいて、イギリス道徳哲学、倫理的直観主義に対するフッサール現象学からのアプローチとの対質を背景としつつ、セラーズにおける倫理的直観主義の現代的意義を検討する共同討議の要録を発表した。この研究成果は、「倫理的直観主義の研究」という本年度の研究テーマを推進するうえでの非常に重要な達成であると考えることができる。 (3)ロバート・ブランダムによるリチャード・ローティ批判を取り上げ、「人間の活動の規範的次元」をめぐるセラーズ派哲学者たちの議論がカントの決定的影響のもとに構築されていることを明らかにする発表を行った。この研究成果は、「オックスフォードにおけるセラーズの思想形成に対してカントの哲学が果たした決定的影響」を考えるとき、とくに「プリチャードとプライスというオックスフォードの哲学者たち」とセラーズの関係を考えるうえで、大きな意義をもつと判断することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究実施計画では、「若きセラーズの思想形成過程」という大テーマのもとで、「倫理的直観主義の研究」を推進することが本年度の目標であった。また、この目標は、「セラーズによる20世紀初頭オックスフォード哲学の受容」に焦点をあわせた研究を行うことをその大きなサブテーマとして含むものであった。 以上の観点からするとき、「セラーズにおける倫理的直観主義のあり方」と、「倫理的直観主義という文脈におけるセラーズ哲学の意義」を明らかにする研究を発表したことで、今年度の研究目標は十分に達成されたと判断することができる。 また、オックスフォード時代のセラーズの知的成長をふりかえるとき、そこで決定的な役割を演じたのはプリチャードとプライスを通じたカント哲学へのとりくみであったと考えることができる。この点について、本年度の研究は、「規範性をめぐるセラーズの理解にカントが与えた決定的な影響」を明らかにする成果を含んでおり、この観点からも当初の目標は順調に達成されたものと考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書に記載の通り、「若きセラーズの思想形成過程の解明」という大テーマのもと、「批判的実在論の哲学」がセラーズに与えた知的影響のあり方を明らかにする研究を行う。より具体的には、ロイ・ウッド・セラーズによる「認知的所与」の分析に焦点をあわせつつ、ウィルフリッド・セラーズの哲学が、アメリカにおける批判的実在論の系譜の正統な継承者としての側面を色濃く有することを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の中核となる内容を、8月上旬にUniversity of Crete(ギリシア/アテネ)で開催される世界哲学会議(World Congress of Philosophy)で発表する予定であり、そのための海外出張旅費として相当額の執行を予定している。 また、批判的実在論関連の文献収集を目的とした海外出張を計画しており、これについても相当の往復旅費と滞在費の執行を予定している。 なお、平成24年度に予定していた国内出張一件を、研究の進捗状況により次年度に実施することとなったため、若干の次年度使用額が発生している。
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