研究課題/領域番号 |
23720010
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
入谷 秀一 大阪大学, 文学研究科, 助教 (00580656)
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キーワード | フランクフルト学派 / アドルノ / ドイツ / 生活史 / ナラティブ |
研究概要 |
当該年度は、前年度同様、現代フランクフルト学派の動向を追跡するというテーマに基づき、2013年3月10日に東北大学で開催された研究会(批判的社会理論研究会、第二十三回研究例会)に参加し、現代フランクフルト学派第三世代を代表するアクセル・ホネットの承認論の現代的動向について、活発な意見交流を行った。 また今年度の所産は、何と言っても2013年3月に申請者の単著『かたちある生 アドルノと批判理論のビオ・グラフィー』が大阪大学出版会より上梓されたことである。これは400頁を超える大著で、アドルノの思想の歴史的な生成過程から、それを引き継いだ現代フランクフルト学派の思想動向に至るまで、つまりフランクフルト学派を主軸に20世紀ドイツ精神史を包括する試みであり、まさに研究課題のタイトル「現代フランクフルト学派研究:アドルノの影響作用史を基軸として」にふさわしいものと自負している。内容的には、ここ数年間に申請者が様々な場所や媒体で発表してきた論考を集めた論集だが、特に本書第五章では未発表の書き下ろしとして、アドルノに対するカントの影響という、あまり日本では論じられたことのない観点を取り上げ、カントの批判主義がアドルノ批判理論にどのように再編されていったかという、哲学史的に見ても非常に意義のある基礎研究を展開した。カントが『判断力批判』で行った美的判断と道徳的判断の関係性をめぐる論述を20世紀的な歴史経験を踏まえて再活性化すること、これこそが後期アドルノの主たるテーマであり、今もなお未解決の問題を提起している、ということを明らかにできたことは、当該研究課題を大きく前進させるものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上で触れたように、現代フランフルト学派の動向のみならず、前回の実施報告書で課題としたバイオエシックスの問題、自伝(オートビオグラフィー)やナラティブ(語り)の問題までも巻きこみながら、極めて巨視的かつ斬新な視点からアドルノと批判理論の哲学的可能性を論じた単著を出版できたことは、非常に大きな学問的所産であった。特にこの単著の後半でオートビオグラフィーの問題について論じることができたのは、2012年度計画(フーコー的な制度論の視点から、個人の生活史の表現可能性を探究する)のみならず、2013年度の計画の一部(哲学的テーマとしてビオグラフィーという概念の内実を際立たせる)をも先取りするものだったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き当該の課題を遂行するとともに、2013年7月にはフランクフルトで開催予定の「フランクフルト・アドルノ講義2013」に出席し、Albrecht Koschorkeによる連続講演「ヨーロッパ近代のナラティブな体制性」を中心にした国際学会に出席する予定である。講演タイトルから予想されるように、これは社会システムとしての物語/歴史(ストーリー/ヒストリー)の現代的帰趨を扱ったもので、ビオグラフィーを主軸に制度としてのナラティブの問題に取り組もうとしている申請者の研究テーマとも重なるものである。またこの講演がアドルノの哲学とどのように交錯するか、大いなる興味を持って見定めたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
国内外での情報収集のための旅費、特に7月に予定しているフランクフルトでのアドルノ学会に参加し、当地で国際交流を深めるととともに、当地でのフランクフルト学派の最新動向を探り、資料を収集する。また次年度は当該研究の最終年度でもあるので、最終報告書の作成のための支出にも研究費を充てる予定である。
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