研究課題/領域番号 |
23720011
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大北 全俊 大阪大学, 文学研究科, 助教 (70437325)
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キーワード | public health / HIV/AIDS / 生権力/生政治 / 政治哲学 / 健康増進 |
研究概要 |
当該年度は、HIV感染症対策のみならず、その他の健康保健施策をも視野に入れて政治哲学的含意について分析することにあった。 その理論的な研究として、まずM. フーコーの統治性をめぐる諸議論について研究した。フーコーは自ら医療および公衆衛生public healthについて研究するために、その前段階として統治性について数年にわたり研究していた。それらは独立した著作としては残されておらず、いわば未完の研究と言いうるが、かなりの分量の記述がコレージュ・ド・フランスの講義録として残されている。それら講義録読解を通して、新自由主義の分析から「生権力/生政治」として知られる一連の思索を研究した。 同時に、2012年の7月にアメリカのワシントンD.C.で開催された国際エイズ会議に参加し、現在の世界的なHIV感染症対策の動向について調査した。昨今注目されている、抗HIV薬を感染予防対策に位置づける戦略treatment as preventionについて多く議論がなされており、HIV対策が世界的に大きな転換点をむかえていることがわかった。 また、HIV感染症対策以外の健康保健の動きとして、日本国内で新しい健康増進のプロジェクト「第2次健康日本21」が昨年明らかにされた。 HIV感染症対策の動向、および日本での健康増新施策の動き、いずれもその政治的含意を読み解くにあたり、フーコーの理論枠組みは非常に有効であった。HIV感染症対策については論文にまとめ、日本の健康増進施策については学会発表にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HIV感染症を主とするpublic healthの政治哲学的な枠組みの分析という本研究の目的において、まず、M.フーコーの統治性および生権力/生政治の諸議論がHIV感染症対策を含む昨今の健康保健政策を分析するにあたり有効であることがわかったことは本研究の遂行にあたり大きな収穫であった。 また、本年度研究課題としていた経済学および福祉をめぐる理論の研究においても、フーコーの統治性および新自由主義の分析から今後研究を進めるにあたりその方向性を得ることが出来た。 HIV感染症対策の動向、そしてその他の健康保健施策の動きについてもおおよその傾向性がつかめるだけの調査は行えた。 よって、おおむね順調に進展していると考える。しかし、WHOなどの国際機関の調査や他の研究領域の研究者との連携について、ようやく年度の終わり頃に着手しはじめたところであり、その点では予定以上とは判断できない。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は本研究の最終年度にあたる。引き続き、政治哲学をはじめ経済学や社会福祉学など諸理論の研究および関連領域の調査を遂行すると同時に、昨今のHIV感染症対策をはじめとするpublic healthの政治哲学的含意について一定の見解を提示することをめざす。 しかしながら、本研究で提示する見解は、今後他領域と連携しながら進めていくべき研究の途上にあるものと考える。今後の他領域との研究連携をすすめていくその方向性を、最終年度には提示したいと考えている。そのためにも、関連すると思われる領域の研究者との研究会を共同して開催する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
理論研究のために、まず書籍にかかる費用、そして研究会の開催などにあたる謝金などの経費を予定している。 そして、調査の遂行および学会参加など旅費等の経費も予定している。 また最終年度にあたり報告書をまとめる予定であるため、報告書作成にあたる経費を予定している。 その他にも論文投稿にあたり海外ジャーナルに投稿する場合の校閲等の経費を予定している。
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