研究課題/領域番号 |
23720011
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大北 全俊 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 招へい研究員 (70437325)
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キーワード | 政治哲学 / 公衆衛生 / HIV/AIDS / 生権力/生政治 |
研究概要 |
前年度に引き続き文献研究および関連する領域の研究者等との研究会を実施した。 文献研究は、公衆衛生の歴史に関する文献などに基づき、現在の公衆衛生の形成の歴史的変遷および近代国家形成との関連などに焦点をあてて遂行した。また、同時にイギリスのNuffield Council on Bioethicsのpublic health ethics に関する報告書を精査し、stewardship state(管理者国家)という概念を軸に、従来の自由主義国家の枠を超えた、公衆衛生に責任を持つ国家のあり方について検討した。特に同報告書では、格差への配慮が国家の中心的な役割とされている。格差への取り組みは公衆衛生の可能性の一つであり、またそういった取り組みへの国家の責任に関する議論は重要である。しかしながら同時に、Nanny state(乳母の国家)と呼ばれるように、そのような国家は人々の生活へ強く介入する傾向も併せ持つ。このような国家、あるいは権力の作用は、これまで分析してきたフーコーの生権力とも重なるものである。このような公衆衛生のもつ両側面と、また改めてそれが国家によって担われることの意味を検討することが必要であると考え、アルチュセールやバトラーの「呼びかけ」の権力作用とそれへの応答の可能性について文献研究に着手した。 研究会については、日本でのHIV対策と国家および対策の対象とされる人々との権力作用について分析した『日本の「ゲイ」とエイズ』の著者である新ヶ江氏を招いて同著をもとに研究会を開催した。また、現代の米国のHIVを主とする健康対策とマイノリティへの配慮のひとつであるLGBTへの配慮のあり方について、国務省研修に参加された人々を招いて研究会を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度末、大阪大学文学研究科の助教の任期終了に伴い退職し、25年度の上半期は同研究科の招へい研究員として研究を遂行した。その後10月より大阪大学医学系研究科に所属を移した。このように25年度は2回勤務の形態が代わり、予算の管理を行う部局も年度途中で変更した。予算の管理をする部局の変更に伴い、一時期予算の執行も控えた。そのため、研究会の開催の目処を立てることが難しく、また研究会などをもとに報告書をまとめることも困難だった。
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今後の研究の推進方策 |
現在着手し始めた国家が公衆衛生を担うことの可能性と意味について、「呼びかけ」と「応答」を軸にアルチュセールやバトラー等の議論を検討する。HIV感染症対策については、新しい予防方法であるbiomedical prevention(薬剤による予防)をめぐる動きとその意味するものについて明らかにする作業を遂行する。 同時に、これまでの研究成果をまとめる作業に入り、研究会の開催とまたそれらをもとに論文や報告書の作成を主に行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進捗状況でも述べたと通り、平成24年度末に大阪大学文学研究科の助教を任期終了により退職し、その後25年度10月より医学系研究科の招へい研究員となった。昨年度内に2回勤務形態が変わり、また予算管理を部局間で移動したため、一時期予算の使用を控えた。そのため、研究会の開催などの目処がたたず、また研究会等に基づいてまとめる予定だった報告書等の作成もできなかった。 文献研究および学会参加などの情報収集を引き続き遂行すると同時に、これまでの研究成果をまとめる作業に入る。よって予算は文献研究および学会参加や研究会参加および開催にかかる費用、また論文や報告書の作成等にあてる予定である。
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