最終年度は、ベルクソン哲学と当時の心理学・生理学との関係に関して、『物質と記憶』第二章で議論される失語症の議論に的を絞って研究を行った。その際に、ハッキング『記憶を書きかえる』の分類を参照にして、ベルクソンの失語症の議論を1)想起の実験的研究、2)記憶の局在化に関する神経学的研究、3)記憶の精神的力動論という3つの分野から成る枠組みによって整理をしたうえで、分析を行った。 ベルクソンの失語症に関連する科学的文献は膨大であり、それらすべてを通覧したわけではないが、例えば1)ではエビングハウスに始まり、G.E.ミュラーを経て、W.G.スミス、キャッテル、ミュンスターバーグなどの用いた実験的手法がベルクソンの記憶の議論にどのようなテーマで用いられたかを明らかにし、2)についてはとりわけ今まであまり明らかにされていなかったフロイトの失語症研究とベルクソンの失語症研究に共通した背景を示し、3)ではリボーの実証的心理学とベルクソンの記憶論との緊張関係に光を当てることができた。 この研究成果はProject Bergson in Japan2015国際シンポジウムで発表した。また一昨年度に口頭発表したドリーシュとベルクソンの研究は『フランス哲学・思想研究』20号に、昨年度口頭発表したヘルバルト、リーマン、フェヒナーとの関係に関しては『現代思想』2016年3月臨時増刊号、総特集リーマンにその成果を発表することができた。 研究期間全体を通して、『時間と自由』『物質と記憶』『創造的進化』の背後にある当時の心理学・生物学的文脈を明らかにすることで、それらがベルクソン哲学の概念生成にどのように関わってきたかを示すという目的は達成できたと思われる。もちろん今回は、すべての文脈を明らかにできたわけではないが、いくつかの文脈に関してはそれらとベルクソン哲学の概念生成の関係を明晰にすることができた。
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