研究課題/領域番号 |
23720015
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
櫻木 新 芝浦工業大学, デザイン工学部, 准教授 (90582198)
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キーワード | 日本語の記憶表現 / 英語の記憶表現 / 日常的な記憶概念 |
研究概要 |
1.昨年度の研究成果を踏まえ、rememberが動名詞を目的に取る場合に表現される記憶概念と、それに対応する日本語表現に関する検討を更に深化させた。まずrememberの動名詞用法が表す記憶概念を明確にするために、従来の議論の中で言及されてきた命題用法との比較を更に詳細に検討するためのアンケート調査を実施した。またその他の、いわゆる経験記憶を表現する用法を詳細に検討し、それらの表す経験記憶の概念と動名詞用法が表す経験記憶との間に含意の差があることを明らかにした。日本語の記憶表現については、「こと」と「の」の違いに関する先行研究など日本語研究領域の文献調査を行い、「覚えている」「思い出す」の用法の中に、命題記憶と経験記憶の違いを明確に示す用法が見当たらないことを確認した。更にrememberの動名詞用法の示す特定の経験記憶の概念を一義的に表すことができるような日本語表現がないかどうかについて検討を行った。 2.これまでの研究成果の哲学的な意義を示すために、記憶と関係のある議論を様々な哲学領域に渡って調査した。その結果、人格の同一性の記憶説に関する議論が本研究と関連が深いことを見出した。記憶説の一般的な定式化ではrememberの動名詞用法が用いられ、その代表的な批判の一つはそもそも動名詞用法に訴えた定式化を前提としたものであることに着目し、(1)における研究成果を踏まえることで、記憶説を擁護する議論が可能であることを発見した。そして、ここまでの研究結果を学会で報告し、様々なフィードバックを得た。 3.rememberの命題用法と対応する命題的知識の含意関係について、更に検討を進めた。昨年度末にこのテーマで執筆した論文に対する査読者のコメントを参考に書き直して投稿を行った結果、認識論に関する専門誌であるLogos and Epistemeに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.rememberの命題用法の分析の結果として、rememberとknowの含意関係に関する論文が、海外雑誌に掲載された。 2.rememberの用法に関する英語ネイティブスピーカーに対するアンケート調査を実施できた。これにより、日本語ネイティブスピーカーとの比較など、日本語と英語の相違をより説得的な形で示すための調査手法の基礎が整った。このほかにも、日本語コーパスの利用など、旧来の分析哲学的な手法による議論を、より客観的な形で擁護するための有効な手段を得た。 3.rememberの用法の中に、「覚えている」で一義的に表現できないものがあることに確証を得るとともに、この相違に哲学的な重要性があることを確認できた。このテーマについて口頭発表を行い、特に日本語研究についてのフィードバックを得ることができた。またこれらの口頭発表を通じて、これまでの研究成果に対する肯定的なフィードバックを得た。 4.当初の24年度分計画にあった「思い出し」と「覚えている」についての研究については、初年度の成果の進展である上記(1)-(3)の研究を優先した。 5.昨年に引き続き、当初予定していた電子ジャーナル(philosopher's index)の購読は見送ったが、実質的な問題は生じなかった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究の中心であった日本語と英語の比較・相違、およびその哲学的な意義についての研究を更に深化させる。昨年度実施した英語ネイティブスピーカーらへのアンケート結果との比較検討を実施するために、日本語話者に対しても同様のアンケート調査を行う。それらのアンケート結果を分析し、rememberと「覚えている」との違いの詳細を明らかにすることを目指す。口頭発表の内容とフィードバックを基に、研究成果を論文にまとめる。これまでの成果を踏まえ「覚えている」と「思い出す」に関するの研究も進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初電子ジャーナル購読に当てる予定であった分を、アンケート調査や文献調査に関わる費用に振り分ける。旅費については、国内学会での発表も視野に入れる。
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