研究課題/領域番号 |
23720016
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研究機関 | 高千穂大学 |
研究代表者 |
金杉 武司 高千穂大学, 人間科学部, 准教授 (00407660)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 心の哲学 / 自己知 / 合理性 / コミットメント / 技能知 / 不合理性 / 自己欺瞞 / 自己の分裂 |
研究概要 |
本研究の目的は、「合理性説」「コミットメント説」などの新たな自己知論によって光が当てられた自己知の合理的側面や実践的側面に特に焦点を当て、これらの新たな試みの妥当性を考察することである。 本年度は、第一に、「合理性説」と「コミットメント説」がどのような立場であるかを明確化し、「合理的・実践的観点からの自己知論」のあるべき姿を探究した。具体的には、命題的態度の直接的な自己帰属は、主体が合理的能力と実践的能力を持つということを具現する技能知によって支えられていると考えるのが、あるべき「合理的・実践的観点からの自己知論」であるということが明らかになった。 第二に、以上のような自己知論と、D. Zahaviらによる現象学的自己知論を比較し、両者の関係性を探究した。具体的には、以上の自己知論では、現象学的自己知論が中心的に扱う知覚的感覚的経験についての自己知が十分に捉えられないのに対して、以上の自己知論が扱う自己知の合理的側面や実践的側面は、現象学的自己知論では十分に捉えられていないことも明らかになった。 以上の研究成果はともに、金杉武司「自己知・合理性・コミットメント―英語圏の心の哲学における自己知論の現在―」(『現象学年報』27日本現象学会編2011年所収)において発表された。 また本年度は第三に、以上の研究で明らかになった自己知と合理性の関係に基づいて、不合理な心のあり方の一例である自己欺瞞と自己知および自己の関係について考察した。具体的には、自己欺瞞的信念を所有する主体に自己知が欠如していること、それゆえそのような主体には部分的に自己の分裂が生じているということが明らかになった。この研究の成果は、金杉武司「自己欺瞞のパラドクス」(認知哲学研究会2011年11月12日)において発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初の計画では、本年度は、「合理的・実践的観点からの自己知論」の中核を成す「合理性説」と「コミットメント説」の明確化・批判的検討を行うほかに、以上の自己知論と根本的に対立すると考えられる「内的知覚説」の明確化・批判的検討や、認知科学等の経験科学的研究の成果についての考察も行う予定であったが、本年度は後者の二つの研究を十分に進めることができなかった。しかし他方で、当初の研究計画では次年度に行う予定であった現象学的自己知論との関係の明確化を、本年度中に行うことができた。以上の理由から、本研究の現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」に相当すると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続き、「合理的・実践的観点からの自己知論」の定式化と課題の明確化に必要な情報を収集するため、文献調査や国内外学会参加を行い、論点を整理する。そして、この論点整理に基づいて、仮のとりまとめを行う。その妥当性を、国内の研究者と開催する研究会や学会のワークショップ(たとえば、日本科学哲学会年次大会、科学基礎論学会年次大会、科学基礎論学会研究例会で開催されるワークショップ)等で批判的に検討し、検討の後、研究成果をまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
「収支状況報告書」の「次年度使用額」が13,421円生じたのは、当初の研究計画で予定していた以上に図書を購入する必要が生じた一方で、情報収集のため参加を検討していた国際学会として、本年度は日本国内で開催された国際学会を選択したため、旅費使用額が当初の研究計画よりも大きく減少したことによる。次年度は、本年度に引き続き当初の研究計画よりも多くの図書を購入する必要があると予想されるが、できる限りそれは少額に抑え、当初の研究計画の通りに、情報収集と研究成果の発表のための国内外学会参加のために旅費を使用する。
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