研究課題/領域番号 |
23720017
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
森田 邦久 早稲田大学, 高等研究所, 招聘研究員 (80528208)
|
キーワード | 量子力学の哲学 |
研究概要 |
二状態ベクトル形式を用いた新しい量子力学の解釈を観測問題の解決に適用した。本解釈の特徴は、従来の解釈が過去の状態のみから現在の状態が決定されるとするのに対して、未来の状態もまた現在の状態に影響を与えるというものである。 「観測問題」は、量子力学の哲学において重要な問題である。この問題は、「A. 量子力学は完全である」「B. 状態変化はシュレーディンガー方程式で記述できる」「C. 測定値はただひとつの明確な値を得ることができる」という3つのもっともらしい主張が、量子力学においては同時に真にはならないと定式化できる。しかし、二状態ベクトル形式を用いた新しい量子力学の解釈ではこれら3つを同時に真にすることが可能であることを示した。従来の解釈、たとえば一般に受け入れられているとされるコペンハーゲン解釈では、「射影公準」を導入することでBを放棄し、多世界解釈ではCを放棄し、ボーム解釈ではAを放棄する。だが、われわれの新しい解釈はいわゆる「隠れた変数理論」ではないので、Aは満たされ、射影公準のような余分な仮定もいらないのでBも満たされかつ、測定値はただひとつなので、Cも満たされるのである。 この研究成果は、申請者ほか四人で著した『量子という謎』(勁草書房)において出版された。また,Annals of the Japan Association for Philosophy of Scienceにも論文を投稿し、現在査読中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
述したように、新しい解釈によって量子力学の哲学上の重要な問題を解決でき、それを著書と論文にまとめることができたので(論文は現在査読中なので研究成果には入れていない)、おおむね順調に進展していると言ってよいだろう。
|
今後の研究の推進方策 |
もうひとつの重要な量子力学の哲学上の問題である「アインシュタインのジレンマ」を新しい解釈で解決できることを示す。また、アインシュタインが量子力学を批判したことは有名であるが,アインシュタインの量子力学に対する不満ーすなわち、非因果性・非実在性・非局所性といった問題が新しい解釈で解けることを示し、これらの成果を単著としてまとめる。また、論文としてもまとめ、学術誌に投稿する。さらに、コペンハーゲン解釈が時間非対称的なのに対して新しい解釈は対称的であるが、そのことがどのように因果や時間の哲学に影響を及ぼすかについても研究を進めていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
量子力学の哲学や因果に関する哲学的議論に関する書籍の購入が主な使用となる。また、研究発表のための出張費や新しい情報を得たり、研究者同士で議論をするために主な研究会や学会に出席しなければならないので、そのための出張費にも使用される。
|