研究課題/領域番号 |
23720025
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
井田 克征 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 客員研究員 (60595437)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | インド哲学 / 宗教学 / ヒンドゥー教 / 聖者 / マハーラーシュトラ / 国際情報交流 / マラーティー語 |
研究概要 |
研究初年度は,マハーヌヴァブ派の聖典Sutrapathを訳出し,そこに示される同派の基本的な神学概念を解明することが研究の中心となった。教義部の中核をなすVicar, Vicar Malika, Acar, Acar Malikaの四章を分析して,同派の宇宙論および解脱論の基本的な枠組みを明らかにした。そしてこの聖典に密接に関係するLilacaritraの前半部分をコンピュータ入力した。この作業によって,Sutrapathの曖昧な記述や,テキストの読みに疑問のある箇所などをさらに正確に解読することが可能となった。8月にはインドのマハーラーシュトラ州において,写本調査を行った。これはプネー市内のシュリークリシュナ寺院所蔵写本およびマハーヌヴァブ派の研究者であるDr. R. Awalgaonkar個人所蔵写本などの膨大なコレクションの中から,特に本研究において役立つ写本資料をピックアップし,そられの所在や保存状態などを確認,リスト化する作業が中心となった。またそれらの資料の中で,許可を得ることのできた資料に関しては,複写作業を行った。さらにマハーラーシュトラ州北部のゴーダーワリー川周辺地域において今後行われる調査のための下準備として,主要な僧院・資料所有者に接触し,来年度以降の研究調査の許可と,協力を依頼した。帰国後は,Sutrapathの教義部に示されたマハーヌヴァブ派の基本的な教義,つまりParameshvarを中心とした一神教的なbhaktiの思想と,karmabhumiとして示される神々のパンテオンの体系をまとめ,さらに同派の解脱論について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度における大きな目標であったマハーヌヴァブ派の聖典Sutrapathの訳出および分析は,順調に進展した。この資料の教義部の中核をなすVicar, Vicar Malika, Acar, Acar Malikaの四章にもとづいて,同派の宇宙論および解脱論の基本的な枠組みを明らかにした。また,この聖典に密接に関係するLilacaritraの前半部分をコンピュータ入力した。これによってテキストの曖昧な箇所などをさらに正確に解読することが可能となった。現地調査においては,プネー市において所蔵されている写本資料が,当初の見込みよりも遙かに多いことが確認され,特にSutrapathの注釈資料などに関しては,期待以上の成果が上げられた。しかしながら,資料の総数が膨大であるため,網羅的な写本カタログ作りの目処は立たなかった。これに関しては,もう少し調査対象を絞って,限定的な写本調査として進める必要があるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には,マハーヌヴァブ派の重要な聖者伝Smrtisthalの翻訳研究にとりかかる。この資料に記されている祖師チャクラダルとその後継者ナーグデーヴの日常の行状などを分析することによって,初期の教団の様子や,祖師と信徒達の日常生活の様子が明らかになるだろう。そして同年度中に,再びプネーマハーラーシュトラ州において写本調査を行う予定である。想定していた以上に写本の量が多いため,現地での協力者と相談の上,おそらく同派の根本聖典数点に絞って所蔵リストを作成することになるだろう。平成25年度には,研究のまとめとしてマハーヌヴァブ派をそれに先行するサンスクリット的クリシュナ崇拝の系譜との関係の中で捉える作業に専念する。そうすることでマハーヌヴァブ派の独自性や,また正統ヒンドゥー教からの連続性と逸脱性などが明らかになるはずである。特にその教義(神学および規範)的側面と,教団組織や信徒と師のあり方などの連続性に焦点を当てつつ,成果を刊行する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は,学会および研究打ち合わせ等のための出張経費支出が当初の見込みより少なくてすんだこと,資料購入が予定よりも遅れていることなどの理由から,別記の通りの次年度使用額が発生した。当該研究費および次年度研究費の使用目的は,主に二次文献を中心とした資料の購入費,研究会など出席のための国内旅費,三週間程度の現地調査(インド・マハーラーシュトラ州)のための国外旅費,資料整理のための人件費,電子テキスト作成のための経費などを計上した。
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