研究課題/領域番号 |
23720030
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研究機関 | 高野山大学 |
研究代表者 |
加納 和雄 高野山大学, 文学部, 助教 (00509523)
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キーワード | 梵文写本 / 仏典 / インド・チベット文化交渉史 / 国際研究者交流 / チベット: ネパール: イタリア: ドイツ |
研究概要 |
[研究目的]本課題はチベット伝来梵文写本を巡って織りなされたインド・チベット間の文化交渉史という視座から、写本および付随する事象を総合的に解き明かそうとするものである。すなわち (A) チベット伝来の梵文仏典写本の由来、(B) インドからチベットへの梵文仏典写本の流伝の様相、(C) 梵文仏典写本がチベット文化に与えた影響、という三点から逐次解明をめざす。 [研究実施状況]本年度は(B)について研究を行った。特にチベット仏教の礎を築いたアティシャが、インドからチベットへと将来した私蔵の梵文写本集成の存在をつきとめ、さらにそのいくつかがいまなおチベットに残っていることを明かした。詳細は下記論文に発表した。「アティシャに由来するレティン寺旧蔵の梵文写本―1934年のチベットにおける梵本調査を起点として―」(『インド論理学研究IV』、2012年。123-161頁)。 また(A)のうち昨年度未解決のまま残したカシュミール由来のチベット伝存写本については、新たに80枚以上からなるシャーラダー書体の断簡集の存在が判明し、その中に新出のテクスト含め、15以上の作品が収録されている点、明らかになった。連関研究班の活動として2012年8月7日~19日、チベット自治区寺院調査を敢行し数点の梵文写本を披見(ラサ、シガツェ、サキャ、チョナンプンツォクリン訪問)。 [海外学会・研究会]2012年5月1~9日、ハンブルグ大学のアイザクソン教授を訪ね梵文写本読解の共同研究。2012年6月8日~9日、高野山密教研究会にて口頭発表(6月8日発表)。2012年8月1日~6日、北京国際チベット学会参加(於北京中国蔵学研究中心)。2012年9月3日~7日、神戸国際若手チベット学会発表(9月4日発表)。2013年1月17日、高野山大学密教文化研究所研究会口頭発表。2013年3月6日~12日、北京において梵文写本共同研究。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記三点の目標のうち、(B)「インドからチベットへの梵文仏典写本の流伝の様相」についての調査を、特にアティシャの梵文写本の蔵書コレクションに焦点を絞って詳らかにすることを通じて、遂行しえた。これは当初の年次計画に沿ったものである。特に史資料と遺品現物(文献とモノ)との両面を照合しながら同一事象を追求することによって、導出された結論の確度を担保することができた点は大きく、計画を構想した当初は、予想していなかった点である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、第三年次には、上記(C)「梵文仏典写本がチベット文化に与えた影響」の調査に、第四年次にはデータの分析と研究の総括に、順次移行する。同時に(A)(B)についてもそれぞれ補充調査を行う。とくに(A)についてはカシュミール由来の梵本に焦点を当て、(B)についてはより多くの写本将来者の例を回収する。 久間泰賢三重大学准教授およびHarunaga Isaacsonハンブルグ教授が各自の進めるヴィクラマシーラ寺院の写本および同寺院の顕密思想についてのプロジェクトと連携して調査を遂行中であり、今後とも連携を継続予定。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は、おもに旅費(ハンブルグ大学での写本読解共同研究など)に7割、および、物品費(資料、情報管理機器)の購入に3割ほどを充てる。
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