平成25年度は、中国については、1920 年代以降、40 年代にかけて出版された社会進化論 の一般向け解説書を検討する作業を行った。このように社会的にひろがった社会進化論の影響を受けた人物のひとりに毛沢東がいることから、毛沢東の著作を検討し、引きつづき人民共和国成立以後の宗教行政文書、周恩来、鄧小平、江沢民らの指導者による宗教への言及などを素材として、それらにおける宗教理解を分析した。さらに、本研究において検討した清末民国初期の中国における孔教会運動の影響がシンガポールにまでおよんでいたことから、シンガポールにおける資料収集を実施した。日本に関しては、ベンジャミン・キッドや丘浅次郎らの通俗的解説書によって地方にまでおよんだ社会進化論の影響の一例として、佐渡にいた北一輝による『国体論及び純正社会主義』などを事例として、在野における社会進化論の受容のありかたを検討した。そのうえで、こうした社会進化論的な発想によるナショナリズムと宗教の理解と、戦後の靖国神社をめぐる論争や「日本人論」「日本文化論」との相似性および相違点を検討した。以上の作業と並行して、社会学理論や法哲学などにおけるナショナリズム、宗教、さらに公共性をめぐる議論を参照することによって、近代中国および日本の事例が持つ社会思想上の意義を検討した。研究発表としては、これまでの研究成果を集約的に盛り込んだ論文を発表した(住家正芳「ナショナリズムはなぜ宗教を必要とするのか:加藤玄智と梁啓超における社会進化論」『宗教研究』376号、pp.1-25、2013年)。
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