研究課題/領域番号 |
23720033
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岩崎 真紀 筑波大学, 人文社会系, 助教 (10529845)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
キーワード | 国際研究者交流 |
研究概要 |
本研究は、エジプトの宗教的マイノリティであるコプト・キリスト教の修道院を事例とし、現代エジプトにおけるコプト修道院の意味と役割を明らかにすることを目的としている。 平成23年度は7月と12月に聖サミュエル修道院でのインタビュー調査および参与観察を行なった。その結果、修道院長への聞き取りを通じて、エジプトに点在するコプト修道院のなかでの聖サミュエル修道院の独自性が明らかになった。すなわち、他修道院が多少なりとも観光の要素を持っているのに対し、聖サミュエル修道院は伝統的修道生活を維持している点である。 エジプトでは平成23年初頭に民衆革命が起こった。そのため、当初の計画にはなかったが、革命の影響を調べるためのインタビュー調査を行ない、学会発表(岩崎真紀「エジプト1月25日革命とコプト・キリスト教」於 日本宗教学会第70回学術大会(関西学院大学))および論文出版(岩崎真紀「宗教的マイノリティからみた一月二五日革命―コプト・キリスト教徒の不安と期待―」『現代宗教2012』秋山書店、2012年4月出版予定)を行なった。ムバーラク前大統領による圧政の終焉は喜ばしいものの、イスラーム系政党が議会選挙で圧勝した結果、マイノリティであるコプト・キリスト教徒たちはエジプトの将来に多大な不安を抱いているということがインタビュー調査のなかから明らかになった。また、コプト・キリスト教徒の移民が多いフランスで活動するコプト修道士と平信徒の関係についての調査も7月と12月に実施した。これはエジプト本国のコプト・キリスト共同体においても、外国へ移民した者たちからの多額の送金などを通した移民たちの存在が非常に大きい存在であるため、コプト・キリスト教の全体像を知るためには意義のある調査である。また、エジプト以外の国も調査対象としたのは、革命の余波により社会が不安定になり調査が続行できないことも考慮している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、上エジプトの聖サミュエル修道院を事例とし、参与観察およびインタビューを通して下記の点について明らかにすることを目的としている。(1)修道士の日常生活、(2)修道士のオーラル・ヒストリー、(3)修道士と平信徒の関係、(4)平信徒にとっての修道士、修道院の意味、(5)エジプト社会において修道院が担っている役割、(6)宗教間対話の実践、(7)宗教指導者レベル、民衆レベルでのイスラームとの関係。研究初年度である平成23年度は、とくに(3)修道士と平信徒の関係、(4)平信徒にとっての修道士、修道院の意味について、インタビュー調査や参与観察から明らかにすることができた。ムスリムが90%近くを占めるエジプト社会では、さまざまな社会規範がイスラームと深くかかわっている。そのような社会で生きる宗教的マイノリティであるコプト・キリスト教徒にとって、世俗的世界から隔絶しキリスト教信仰をストイックに実践する修道士が生活する修道院は、平信徒にとっても憂いなくみずからのキリスト教信仰を表明し、実践できる場として機能していることが、インタビュー調査や参与観察から明らかとなった。公共交通機関が通っていない聖サミュエル修道院へは親族や近隣者たちで車を手配して来るしかないため、多くの平信徒は10-20人の団体でやってくる。そのなかには観光気分の者もいるが、多くは修道士のもとを訪れ、みずからの悩みや人生、信仰について相談する。平信徒にとって修道士たちは、厳しい戒律に則って修道生活を行う模範的キリスト教徒として深く尊敬されている。修調査を通じて看取されたそのような平信徒―修道士関係からは、修道士は政治的権力は皆無であるが、精神的にはコプト共同体の市中であるということが言えるだろう。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は23年度同様、7月と12月にエジプト、フランスでの調査を実施する予定である。着目点は、先に挙げた6点の研究目的のうち、昨年度調査を行なっていない(1)修道士の日常生活、(2)修道士のオーラル・ヒストリー、(5)エジプト社会において修道院が担っている役割、(6)宗教間対話の実践、(7)宗教指導者レベル、民衆レベルでのイスラームとの関係で、これらを中心にインタビュー調査と参与観察を進めていく。 また、1月25日革命後の社会変化に関連した調査も続ける。エジプトでは5月に大統領選挙を控えており、その結果、議会選挙で圧勝したムスリム同胞団が擁立する人物が大統領となった場合、宗教的マイノリティであるコプト・キリスト教徒の扱いが大きな争点となってくるのは必至である。本年度調査は第一回を7月に予定しているため、調査は、コプト・キリスト教徒の大統領選挙への関わり方や、選挙結果に対する反応、選挙後の社会状態などに焦点をあてることとする。 他方で、現代のコプト共同体を40年にわたって牽引してきた第117代総主教シュヌーダIII世が平成23年3月に逝去した。総主教は本課題が研究対象としている聖サミュエル修道院でも修道士として生活をしていた。コプト共同体において総主教の存在は非常に大きく、死後1カ月が経った今も、その死は共同体に影を投げかけている。シュヌーダIII世総主教はサーダート、ムバーラク、両元大統領と対立、協調を繰り返しながら、コプト・キリスト教徒とムスリムの共存に多大な努力を図ってきた。本年度は、総主教の死を受け、彼の人生とコプト共同体におけるその意味と役割について、8月の宗教学会で学術発表を行ない、そこでの議論を踏まえたうえで、年度内に学術論文を観光するつもりである。 また、品川区主催の市民講座品川シルバー大学での講義を行なうことで、研究成果を社会に還元することも予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は7月と12月にエジプト、フランスの調査を予定しているため、この時期に旅費が発生する。調査の際には、前年度に撮影した写真データをインフォーマントたちとシェアするため、写真現像用紙やプリンターのインク代も計上している。現地調査では、調査補助を現地のコプト教徒に依頼するため、その謝金が必要となる。また、修道院での聞き取り調査においては、とくに修道士たちへは専門知識の提供に対する謝金が必要である。修道士は個人的財産を有しないため、実質的には修道院への謝金となる。研究成果発表のため国内の学術大会に参加するため、2回分の国内旅費が発生する。研究成果を英文でも発表するつもりであるため、英文校閲費が発生する。
|