研究課題/領域番号 |
23720033
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岩崎 真紀 筑波大学, 人文社会系, 助教 (10529845)
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キーワード | 国際研究者交流 |
研究概要 |
本研究は、エジプトの宗教的マイノリティであるコプト・キリスト教の修道院を事例とし、現代エジプトにおけるコプト修道院の意味と役割を明らかにすることを目的としている。平成24年度は7月と3月(25年)に聖サミュエル修道院および周辺農村で、8月と12月にはコプト移民の多いフランスで、それぞれインタビュー調査および参与観察を行なった。 エジプトに点在するコプト修道院のなかで、他修道院が多少なりとも観光の要素を持っているのに対し、聖サミュエル修道院は伝統的修道生活を維持している点に独自性がある。この傾向は本年度の調査時にも変化はなかった。広大な敷地に関する調査により、育牛やオリーブおよびナツメヤシ栽培が修道院に現金収入をもたらすとともに、地元貧困層の雇用創出ともなっていることが明らかになった。 パリのコプト教会では、日曜学校や各世代や性別ごとの勉強会に対する参与観察により、コプト語を中心としたコプト的伝統がそこで脈々と受け継がれていることが明らかになった。 本年度は、現代のコプト共同体を40年にわたって牽引し、平成23年3月に逝去した第117代総主教シュヌーダIII世に関する聞き取り調査も行った。サーダート、ムバーラク、両元大統領と対立、協調を繰り返しながら、コプト・キリスト教徒とムスリムの共存に多大な努力を図ってきた彼は、聖サミュエル修道院でも修道士として生活をしていた。彼の人生とコプト共同体におけるその意味と役割については、8月の日本宗教学会第71回学術大会(皇學館大学)で学術発表を行なった。 また、品川区主催の市民講座品川シルバー大学およびNHK文化センター主催NHKカルチャーでの講義を行なうことで、研究成果を社会に還元した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、上エジプトの聖サミュエル修道院を事例とし、参与観察およびインタビューを通して下記の点について明らかにすることを目的としている。(1)修道士の日常生活、(2)修道士のオーラル・ヒストリー、(3)修道士と平信徒の関係、(4)平信徒にとっての修道士 、修道院の意味、(5)エジプト社会において修道院が担っている役割、(6)宗教間対話の実践、(7)宗教指導者レベル、民衆レベルでのイスラームとの関係。平成24年度は、昨年度につづき、とくに(3)修道士と平信徒の関係、(4)平信徒にとっての修道士、修道院の意味について、インタビュー調査や参与観察から明らかにすることができた。また、敷地内の調査によって、育牛や生産作物栽培などの実態についても明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は夏季と冬季にエジプトでの調査を実施する予定である。着目点は、先に挙げた6点の研究目的のうち、これまであまり調査を行なっていない(1)修道士の日常生活、(2)修道士のオーラル・ヒストリー、(5)エジプト社会において修道院が担っている役割、(6)宗教間対話の実践、(7)宗教指導者レベル、民衆レベルでのイスラームとの関係で、これらを中心にインタビュー調査と参与観察を進めていく。 エジプトでは平成23年2月の革命によって多年にわたる独裁政権が崩壊し、翌年6月初の民主的選挙によりムスリム同胞団が擁立するムハンマド・ムルスィー大統領が就任した。しかしながら、このことは宗教的マイノリティであるコプト・キリスト教徒にとって、大きな不安要素となっている。現在まで、とくに宗教的マイノリティに対して不利な政策等はなされていないが、治安の不安定化、物価上昇、雇用の減少等、一般的な社会問題は大きくなっており、このことがマイノリティとしてエジプトに暮らすコプトの困難さを加速させているという声が多数聞かれた。修道院という閉じられた空間についての研究だけでなく、常にエジプト社会の変容というダイナミクスを念頭に置き、研究を続けていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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