本研究は、エジプトの宗教的マイノリティであるコプト・キリスト教の修道院を事例とし、現代エジプトにおけるコプト修道院の意味と役割を明らかにすることを目的とした。具体的には、上エジプトの聖サミュエル修道院を事例とし、参与観察およびインタビューを通して下記の点について明らかにすることを目的とした。(1)修道士の日常生活、(2)修道士のオーラル・ヒストリー、(3)修道士と平信徒の関係、(4)平信徒にとっての修道士、修道院の意味、(5)エジプト社会において修道院が担っている役割、(6)宗教間対話の実践、(7)宗教指導者レベル、民衆レベルでのイスラームとの関係。 現地調査においては、聖サミュエル修道院のインタビューおよび参与観察を行なった。その過程で、エジプトの他の修道院が多少なりとも観光の要素を持っているのに対し、聖サミュエル修道院は伝統的修道生活を極力維持していることが明らかになった。例えば、修道士の一部は、参詣に訪れる一般信徒への対応を行ないつつ、週に数日は、河岸段丘の岸壁に自分たちで掘った洞窟で冥想を行なっている。 エジプトでは平成23年初頭に民衆革命が起こり、その後、治安状況の大きな変化により、これまで通りの調査が難しい状況に陥った。これに伴い、当初の計画にはなかったが、エジプト国外に移民したディアスポラのコプト・キリスト教徒への調査も行うこととなった。具体的には、フランス・パリ郊外とカナダ・モントリオールにあるコプト正教会とそこに通う信徒たちへのインタビューと行事等への参与観察を行なった。H26年度はモントリオールのコプト教会の復活祭ミサの参与観察を行なった。こうした調査を通じて、同じコプト・ディアスポラといえども、国によって状況はかなり異なり、その背景には、ホスト国の移民政策が大きく関与しているものの、どちらの共同体でもコプト修道士や司祭の存在の大きさが明らかになった。
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