研究課題/領域番号 |
23720042
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
浜 由樹子 津田塾大学, 国際関係研究所, 研究員 (10398729)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / ロシア / 中央アジア / ユーラシア主義 / アジア主義 / トゥラン主義 / 地域主義思想 |
研究概要 |
本年度は、ユーラシア主義と汎アジア主義との接点を洗い出す中で現れた課題、「トゥラン主義」に関する調査・研究に多くを費やした。19世紀後半に広がりをみせたトゥラン主義は、その起源も思想内容も、日本の学界のみならず、国際的に見ても、未解明の部分があまりに多いイデオロギーである。にもかかわらず、1930年代に、ユーラシア主義と同時期に日本に紹介され、汎アジア主義との接点を持ったという点において、本研究計画にとっては必要不可欠な思想・運動でもある。本年度は、ハンガリーから、トルコ、ロシア、日本へと伝播したこの思想・イデオロギーの全体像を把握することを目指して、トゥラン主義のイデオロギー内容を概観し、また、それが各地へ伝播した当時の国際状況に照らし合わせつつ分析した。その研究成果は、ワーキングペーパーとしてまとめ、刊行した。 その研究過程で、20世紀初頭の汎イズムの中には、人種主義に対する反応という共通要素が少なからず存在することを再認識したため、アーリア主義をはじめとする人種主義に関する研究を並行して進めた。本研究計画における当初の仮説であったところの、汎イズムにおける西欧主導の国際秩序への批判、ヨーロッパ普遍主義に対する反発という要素に、今後は、人種主義の影響を加えて考察する必要があるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記トゥラン主義に関する情報、既存の研究があまりにも少なかったため、本年度はその調査、研究に多くの時間を費やした。ただし、その結果、本来「伏線」であったトゥラン主義とユーラシア主義、トゥラン主義と汎アジア主義との関係が明らかになったため、日本における思想交流の全体像が当初よりもだいぶ明瞭になったように思われる。 一方、もう一つの「伏線」である汎テュルク主義に関する研究は遅れ気味であり、基本文献の収集に留まっている。また、汎ヨーロッパ構想およびユーラシア主義との関係に関する調査も同様に、基本文献の資料調査に留まっている。 主たる理由として、本年度予定していた資料収集は、目的地であったプラハのスラヴ図書館の大規模改装工事で資料へのアクセスが制限されたため、行うことができなかったことが挙げられる。次年度以降、場合によっては調査目的地を変えることも視野に入れつつ、計画の検討を進める。
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今後の研究の推進方策 |
汎アジア主義とユーラシア主義の関係を解明するためには、ロシア(特にユーラシア主義者)のアジア観と、アジアのロシア観を突き合わせる作業が必要不可欠である。当初の予定では、本研究の中でロシアのアジア観を整理するつもりでいたが、ここ2~3年の間に、欧米の学界を中心に、優れた研究成果が実に数多く出版されている。そこで、次年度は、それらの中でも特に優れた研究成果の翻訳、および紹介を目的とした書評論文の執筆を行うこととする。 同時に、汎テュルク主義に関する調査・研究を進めつつ、近年飛躍的に増えている汎スラヴ主義の再検討に関する研究動向を把握すべく、汎スラヴ主義についての調査・研究を行う。この二つの思想・イデオロギー潮流の整理により、19世紀末から20世紀初頭のロシアを舞台とする、複数の汎イズム間の諸関係が明らかになるはずである。その上で、主に日本とロシアを中心とした、比較思想研究の構図を描くことができるであろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究動向の変化を受けて、次年度は、既にこれまで研究交流があったカナダ、アメリカ、イギリスの複数の研究者との研究会(於:カナダ、ブロック大学)を企画しており、さらなる情報交換と研究成果の共有を図る。そして、その研究交流の成果を、論文集ないしは解説論文を付した翻訳書として出版する予定である。 また、主に本年度の研究成果を中心に、国内での学会発表を企画しており、目下パネル企画を申請中である。そのため、パネル構成員による研究会、学会発表のための出張旅費を計上する予定である。 加えて、特に汎テュルク主義、汎スラヴ主義に関する資料を重点的に、その充実化を図る。
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